北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
「ブス」とは、女性への悪口として最も流通している単語(※写真はイメージ)「ブス」とは、女性への悪口として最も流通している単語(※写真はイメージ)
 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、女性の美醜についての言葉について。

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 読者からお手紙をいただきました。似た体験をしている女性は少なくないと思うので、ここで紹介します。

 Aさんの父親は、女性を見れば美醜について言いたがる。テレビを見ながら、または車を運転しながら歩行者の女性をいちいち評価する。最近は孫娘にも「今はブスだけど、いつか美人になる」などと言いはじめた。いくら注意しても、思っていることを口にして何が悪い?という態度で全く聞く耳を持たないとか。

 Aさんは、こう記します。

「私が感じる非常な不快感の正体は何なのでしょう」

 Aさん、お手紙をありがとうございます。「お父さんも、悪気があるわけじゃないし……」と気持ちに蓋をせず、不快感の正体を言葉にするのがフェミニズム。一緒に考えましょう。

 さて。この国に生きる女性で「ブス」と呼ばれたことのない人は、恐らくいないでしょう。なぜなら「ブス」とは、女性への悪口として最も流通している単語だからです。女を叩きたい時は、容姿を引き合いに出せばいい。男児だって「ぶーす」と楽しげに言います。それは自分が「ぶーす」とは言い返されないと知っている者の振る舞い。そういうのを社会化って言います。これが「ばーか」ならブーメランのように自分に返ってくるかもしれない。でも「ブス」という言葉が空中に放たれる時、それは「中身で勝負の俺」の特権も同時に匂わせるのが常です。

 
 また女を容姿で判断したがる人ほど、美人への嫉妬と憎しみが強い傾向にあります。例えば美人が社会的に高い評価を受けると、「美人だから」と言いたがる人がいますが、少し前、セクハラを訴えるハリウッドの俳優に対し「いい目にもあってきたはずなのに」ということを日本の男性芸人たちがテレビで言っていました。「性的嫌がらせを受けた」と言う女性に、「性的魅力を利用したこともあるだろう」と言うのは、性と暴力の区別がつかない、さらに言えば俳優の仕事を理解してない幼稚さでしかありません。また「美人ですね」と職場で言うのもセクハラです!と言うと、「褒めてもいけないのか!?」「息苦しい社会だ!」と怒り出す人もいます。美醜で差別されることだけが問題なのではなく、美醜の評価を親しくない男性に下されることがストレスなのです。「きれいだね」と言われて嬉しいのは好きな人に親密な空間で、と理解しておくのが無難でしょう。そのくらいに女の日常は、値段をつけられたり、容姿で価値を測られたり、ブスと言って勝ったみたいな顔をする男に通り魔的に傷つけられたり、まるで顔が、人生の一大事件のように扱われてうんざりなんですよ。

 Aさん、あなたの不快感は筋が通っています。父親が女性差別をし続けているのだから、当然です。差別者はよく「俺は差別主義者じゃない、事実を口にしているだけだ」と言いたがります。その多くは無知と無教養が原因ですが、本人の努力以外では変われません。Aさん父がこの原稿を読んでくださり、何か感じてくださることを祈ります。

週刊朝日 2018年2月9日号