ニール・ヤングがこのほど、新作『ザ・ヴィジター』を出した。“ちなみに俺はカナダ人でアメリカが大好きだ”――という歌詞が物語るように、カナダ出身のニールが現在のアメリカを俯瞰した作品だ。
ニールは近年、政治・社会問題を積極的に取り上げてきた。イラク戦争反対を訴えた『リヴィング・ウィズ・ウォー』(2006年)。遺伝子組み換えを活用する世界最大のバイオ化学企業への皮肉を込めた『ザ・モンサント・イヤーズ』(15年)。先住民支援や環境問題などを主題にした『ピース・トレイル』(16年)……。
アメリカをテーマにした今作の1曲目は「オールレディ・グレイト」。この曲名自体、トランプ大統領の“アメリカを再び偉大な国に”というスローガンへの皮肉に満ちている。“壁はいらない 憎しみはいらない ファシストのアメリカ合衆国はいらない”というチャントも出てくる。
ファンキーなR&B風の「スタンド・トール」は、男女や人種の差別をなくすために立ち向かおうと呼びかけるメッセージ・ソングだ。ブルース・ベースのスワンプ・ロック的な「ホエン・バッド・ゴット・グッド」では、“奴を投獄しろ~嘘つきのトップなんて信じられない”と怒りをあらわにする。
いずれもトランプ大統領を皮肉り、批判し、糾弾した曲だ。
子どもたちの未来を心配し、“信じるもののために立ち上がれ 権力に屈するな 大地を守り 海を守れ”と歌う「チルドレン・オブ・ディスティニー」では、マーチ風の威勢のいいコーラスと、オーケストラをバックにしたニールの歌が交互に登場する。
アルバムの締めくくりは10分半に及ぶ生ギター主体のロック・ナンバー「フォーエバー」。“地球は牧師のいない教会のようなもの 人々は自力で祈らなきゃいけない”と歌い、人類の課題や未来について切々と語りかける。
本作では、近年のアルバム同様、プロミス・オブ・ザ・リアルがバックを務めている。メッセージ色の濃い曲が主体だが、曲調はバラエティーに富み、音楽内容は多彩だ。すでに傑作、名盤との声もあがっている。