田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
安倍首相の改憲への“あいまいさ”を指摘(※写真はイメージ)
日本の安全保障問題はどう考えるべきなのか。ジャーナリストの田原総一朗氏が安倍首相の改憲への“あいまいさ”を指摘する。
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「政府はいつ頃から、日本の安全保障ということを考え始めたのだろう」
私が司会を務める「激論!クロスファイア」(BS朝日)の新春の放送で、元防衛相の森本敏氏に問うた。
かつて首相を務めた宮沢喜一氏が、私に何度も言ったことがある。
「日本人は自分の体に合わせた服をつくるのは下手だが、押しつけられた服に体を合わせるのは上手です」
この言葉は、戦後日本のあり方を見事に言い当てている。昭和の戦争では満州事変、日中戦争、太平洋戦争と、日本人は自分の体に合わせた服をつくろうとして失敗した。戦後は占領軍から軍隊を持てない憲法という服を押しつけられたが、それに体を合わせるのは上手だった。つまり、国民の生命、財産、そして国土を守ることに成功したというのだ。
宮沢氏によれば「あのような憲法を押しつけたのだから、日本の安全保障の責任は当然、米国にあるとして、憲法を逆手にとって米国の戦争に巻き込まれるのを回避できた」という。たとえばベトナム戦争のとき、米国は佐藤栄作政権に「自衛隊をベトナムに派遣し、米軍に協力せよ」と要求してきた。佐藤首相は「あなたの国が難しい憲法を押しつけたので、海外に出られないではないか」と反論し、戦争に巻き込まれるのを回避できたというわけだ。
森本氏によれば、日本政府が自前の安全保障について考え始めたのは湾岸戦争が一つの契機だという。湾岸戦争には米国もソ連も賛成し、NATOも参加した。当時、自民党の幹事長だった小沢一郎氏は日本も参加すべきだと主張したが、自民党内にも反発が強く、結局、130億ドルのカネを出すだけとなり、世界から批判を浴びることになった。
そこで、具体的な国際貢献をすべきだということになり、宮沢内閣でPKOへの派遣が決まり、小泉純一郎内閣ではアフガン戦争やイラク戦争に自衛隊が派遣されることになった。だが、いずれも目的は国際貢献であり、「自衛隊員は汗を流すが、血は流さない」、つまり「戦闘」には参加しないということであった。
そして、戦争を知らない世代の安倍首相が改憲を打ち出した。だが、安倍首相は9条の1項、2項は変えず、自衛隊を明記すると表明している。憲法学者の7割近くが自衛隊を違憲ととらえているから、というのが理由だ。だが、少なからぬ自民党議員が、自衛隊の存在を明記しても、2項を削除しない限り矛盾した憲法になると考えている。安倍首相も、それはよくわかっているはずだ。だが、2項の削除を主張すると公明党は同意せず、希望の党などを引き込んで国会で発議しても、国民投票で反対が多くなる。こうなると内閣崩壊だけでなく、自衛隊が違憲となることになる。安倍首相はそれを恐れてあえてあいまいなかたちを選び、一度改憲をすれば2度目からやりやすくなると考えているのだろう。
さて、安全保障をどう考えるべきか。朝日をはじめ各メディアは本気で取り組むべきである。
※週刊朝日 2018年1月26日号