社会の個人化については、多くの社会学者が論説を展開している。ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックは、「社会の個人化によって家族はリスクの場に変わった」と言う。確かに、今まで家族は安心できる大切な拠り所だったろう。しかし、家族だけが最後のセーフティーネットという考えに縛られると危険だ。育児や介護のための離職を「家族ならば当然」という規範は、長期的には本人の経済的破綻を招き、京都認知症母殺害心中未遂事件などのような家族同士の共倒れになる悲劇的結末も現実に発生している。

「人は皆結婚し、家族を持ち、子を生み育てるもの」というかつての常識に生きた世代からすれば、こうした社会は認めがたいかもしれない。が、曖昧な知識のまま情緒的な議論を進めるのは不毛だ。こうした不可避な現実を正確に理解し、目を逸らさない姿勢が重要である。

 家族だけではなく職場もまた変貌した。一生同じ会社にとどまるのではなく、自由に転職し、キャリアアップするという考え方が増え、企業も副業や兼業を認める流れも出てきた。ノマド的な働き方など個人としての活躍の場と自由度が拡大している。大規模な設備や資金を持たずとも事業を始めることができるようになり、個人がクラウドファンディングを活用して資金を調達することも可能となった。

 消費の世界においても個人化は顕著である。大衆という「群」がモノを所有することに価値を見いだした時代はとうに過ぎ去った。マーケティングでは、従来、世代論やデモグラ論が主流だったが、個人化する社会においてこの「群」でとらえる世代論は意味をなさない。そもそも消費行動において大きな違いを見せるのは、未婚や既婚といったライフステージのほうである。独身生活を送る未婚と、結婚して家族生活を営む既婚とでは、消費行動が根本的に違うのは明白だ。それは、かつて独身だった既婚者はよくおわかりだろう。自分のためだけに金と時間を使える独身の自由は、家族には与えられない。独身が5割の社会では、消費も個人化していくのだ。

週刊朝日 2018年1月19日号より抜粋

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