
実は好きだったラップの導入
SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA / DCPRG
昨年9月リリースの前作『ALTER WAR IN TOKYO』の時と同様、この新作に合わせてリーダーの菊地成孔にインタヴュー。立ち上げて間もない新宿の新事務所「ビューロー菊地」で楽しく話を聞いた。
ユニバーサルミュージックとの契約は2タイトルで、前ライヴ作の発売前からこのスタジオ録音の制作は決定事項だった。 わずか半年間という短いインターヴァルながら、内容は前作にはない新しいアイデアが盛り込まれており、DCPRGが急速に進化した印象だ。その背景には2007年の活動休止を経た2010年の新始動で、継続参加の3人を除いてメンバーが若返った11人に再編成されたことが挙げられる。それに伴って菊地はバンド名の変更も考えていたが、今作に至ってようやくオリジナル名称のデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンの略称を正式表記とした。
何と言っても特筆すべき新機軸はラップの導入だ。菊地のレコーディング・キャリアにおいて、ラッパーやトラック・メイカーとコラボした実績はない。つまり一般的なイメージとして、菊地とヒップホップは無縁だったのだが、実は好きな音楽ジャンルは
1)ジャズ
2)ヒップホップ
3)ポップス
の上位に来るほどのヒップホップ・ファンということを知った。
リスナー歴も年季が入っていて、内外の事情に精通している。菊地がどれほどこのジャンルを愛し、自分の中で機が熟したこのタイミングでアルバムに取り入れたのだと、共感を抱きながら理解できたことが、今回の取材における最大の収穫となった。
参加ラッパーは3組。#1はラジオ番組から生まれた菊地&大谷能生のJAZZ DOMMUNISTERSと、ボーカロイドの兎眠りおんが日本語ラップでマイク・リレーをする、類例のないアイデアを披露。
本作最大のフックとなるSIMI LABは近年、相模原アンダーグラウンド・シーンに登場したヒップホップ集団で、昨秋リリースしたデビュー・アルバムが各方面で高い評価を受けた斯界の注目株だ。ビートが揺れるというヒップホップにはなかった手法で菊地を驚嘆させた彼らは、#4、6の2曲にフィーチャーされており、アフロポリリズムを音楽性の柱とするDCPRGとの初共演でありながらも親和性を示している。
アミリ・バラカの朗読、というよりもアジテーションと呼ぶべきスピーチを使用~加工した#7を、アルバムの最後に置いた点も見逃せない。これをラップと捉えた時、30年以上前のバラカが最もエネルギッシュで強度が高い事実に、広く黒人音楽/文化を探求し続ける菊地のスタンスが重なる。再演となった菊地雅章の#2がある意味、平和で牧歌的に聴こえるのも菊地の企図だったのだろうか。
【収録曲一覧】
1. Catch 22 feat. JAZZ DOMMUNISTERS & Tone Rion
2. Circle/Line
3. Ta-Te Contact & Solo Dancers
4. Microphone Tyson
5. Tokyo Girl
6. Uncommon Unremix
7. Duran feat. “DOPE” (78) by Amiri Baraka
菊地成孔:Naruyoshi Kikuchi(cond,CDJ,key)(allmusic.comへリンクします)
坪口昌恭:Masayasu Tzboguchi(key)
津上研太:Kenta Tsugami(sax)
類家心平:Shinpei Ruike(tp)
シミラボ:SIMI LAB(rap)
2011年10月~2012年2月、東京録音