西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒養生訓】(巻第二の68)
天地の理、陽は一、陰は二也。水は多く火は少し。
水はかはきがたく、火は消えやすし。
人は陽類にて少く、禽獣虫魚(きんじゅうちゅうぎょ)は陰類にて多し。
此故に陽はすくなく陰は多き事、自然の理なり。
すくなきは貴(たつ)とく多きはいやし。
益軒は養生訓の総論上下の最後で、天地の陰陽について、多くの字数を費やして語っています。この陰陽とは中国思想の中心にある陰陽五行学説に基づく考え方です。
古代中国で生まれた陰陽五行学説は、陰陽学説と五行学説から成り立っています。陰陽学説では天地のあらゆるものが陰と陽に分かれていて、それが生成、発展、変化すると考えます。五行学説ではすべてのものが木、火、土、金、水の5種の基本物質から構成されていて、その相互作用によって万物が変化、発展すると考えるのです。
この陰陽五行学説は中医学にも取り入れられて、基本的な理論の柱に据えられています。ですから中医学を引用することが多い益軒が、養生訓で陰陽に触れるのは当然のことといえます。
もう少し陰陽学説について説明しますと、日は陽で月は陰、火は陽で水は陰、男は陽で女は陰、夏は陽で冬は陰、東は陽で西は陰、動は陽で静は陰といった具合にあらゆる事物を陽と陰に分けて考えます。日と月といったお互いに関連するものが、陽と陰の組み合わせになるのです。益軒は陰陽についてこう説きます。
「天地の理における陰陽の比率は、陽が一に対して陰は二である。陰の水は多く、陽の火は少ない。だから水がかわきにくく、火は消えやすい。人間は陽類で数少なく、鳥獣虫魚は陰類で数が多い。陽は数が少ないが故に貴しとされ、陰は数が多い故にいやしいとされる」(巻第二の68)