ここまで、憲法のびっくりの一部を駆け足で話しました。気づくことは、日本の保守政権のGHQ草案に対する抵抗です。いい意味の抵抗ならいいのですが、明治憲法に近づけようと画策し、その結果、内容が人権感覚からいって後退しています。残念ながらGHQ草案のほうがすぐれている。これは、GHQによって却下された松本試案の中にある明治憲法の精神で、日本側がGHQ草案に抵抗した結果です。

 この構造は安倍首相と日本会議の人たちが、戦後レジーム(戦後憲法体制)からの脱却を掲げているのと相似しています。GHQ草案が下敷きになっている個人主義に基づく日本国憲法に対して、押しつけられたから(押しつけではないことを見ましたね)と、大幅な変更を掲げる自民改憲草案は、個人より国を優先し、家族主義をかかげ、天皇を象徴から国家元首に変更し、神社神道を重視し、戦争のできるふつうの国にして、明治憲法体制の復活をねらう姿勢が見え見えです。自民党に寄り添っている支配層にとって、いまの憲法より明らかに明治憲法のほうが国民を支配しやすいからです。

 これに抗するには、学校で文部科学省が教えない以上、主権者の力を発揮して、私たち市民が憲法の学習運動を起こすことです。憲法が示している多様な人権を皆さんに知ってもらいましょう。と同時に、いままで埋もれていた戦争の惨禍を受けてできた憲法前文の世界から差別をなくす高い理想を掘り起こして、政治に理想をかかげられる希望を見たいですね。

週刊朝日 2017年12月15日号より抜粋