ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
ミッツ・マングローブ「紅白を出汁と旨味で楽しむ方法」(※写真はイメージ)
ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「NHK紅白歌合戦」を取り上げる。
* * *
今年もNHK紅白歌合戦の出場者が発表され、「誰が出る!」「誰が出ない!」と話題になっているところを見ると、ここ30年近く叫ばれ続けている『紅白離れ』というのはいったい何なのだろうと思うわけです。紅白と選挙は似ています。直接的な視聴率(投票率)とは別の話題性みたいなものも含めてのお祭り感。そしてどちらも圧倒的な様式美の上に成り立っているという点も共通しています。選挙カーはマンネリや古臭さを超越した演歌・歌謡曲の世界であり、当確が出た時の『花付け』は紅白両組司会者による『玉投げ』です。どんなに『政治離れ』を嘆いたところで選挙がなくならないのとほぼ同じレベルに達していると言えるでしょう。
毎年のように「新しさに欠ける!」と言われる一方で、「知らない人たちばかり!」とイチャモンをつけられ、わざわざ御丁寧に「今年は紅白を観ない!」なんて意思表示までされたりして、そんな世間のあらゆる『紅白観』によって存在する紅白。「紅白ではなく〇〇を観よう」と裏番組を観ている人たちの「紅白ではなく」に証明される紅白の威厳と値打ち。何より人々の中に、多かれ少なかれ各々の『理想の紅白』があるからこそ、毎年これだけ盛り上がる。さらには観る側と作る側の『理想』がせめぎ合う様は、90年代以降に根付いた新たな『紅白の様式美』でもあります。
そして総合司会のウッチャンこと内村光良さんも素晴らしい。1999年の中村勘九郎さん(当時)、2000年の和泉元彌さん(ともに白組司会)を彷彿させる旨味の効いた人選です。あと、18年ぶりなのにお出汁感満載の松たか子さん。今さら『アナ雪』歌ってくれないかしら。
※週刊朝日 2017年12月1日号