

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「どや顔」。
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先日、携帯電話を替えた。ガラケーをようやく機種変更。
今までのガラケーは買ってから7、8年、だいぶ傷みが激しかった。ACアダプターの差し込み口の蓋はいつの間にか取れていた。操作ボタンをコーティングしているカバーも傷んで、「クリア」と「0・わ」と「8・や」が取れちゃって虫食いだらけ。充電満タンなのに電源が落ちたりする。Xデーが来る前に何とかしなければ、と「携帯を替える! 止めるな!」と家内にどや顔。「とっとと行ってこいやっ!!」の愛情溢れる声を背に受けて、池袋の某携帯ショップへ。緊張。超満員。2時間待ち。みんなスマホを手にどや顔。私の妄想かもしれないが、そう見えるから仕方ない。
「この時間は混むんですよね、申し訳ありません~」。まるで申し訳なさそうに聞こえないトーンの店員。知らないこっちが悪いかのような口ぶり。泣きそうになった。怖かった。なぜ携帯ショップは、店構え、ディスプレイ、店員、そして客までちょっとどや顔なのか?
「○○店でしたら空いてるかも~」。お前みたいなガラケーユーザーは、片田舎の支店がお似合いだ、と言うのか。池袋の何が偉い!? ○○は私の最寄り駅だ。馬鹿にしやがって! 「そっちに行ってみます。ありがとう」。冷静に応える。決してビビってなんかいない。ちくしょう、覚えてろ。いつか見返してやっからな。
○○店はガラガラだった。携帯ショップって威張ったって、閑古鳥の鳴く店もある! 今度はどや顔で入店してやった。
「機種変更したいんだけど!」。本当は「したいんですが……」と言ったのだが、ハートで負けないように「だけど!」な気持ちで店員に挑む。
私「今、ガラケーなんだけどさ」(本当は敬語を使った)
店員「スマホに替えますか?」
私「いや、あえてガラケーのままでいきたいんだよね」。こんな口ぶりでもないし、「あえて」でもなかったがガラケーでないと使いこなせる気がしない。