漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「特集ドラマ 眩~北斎の娘~」(NHK総合 9月18日19:30~)について意外な魅力を発見する。
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葛飾北斎(長塚京三)の娘・お栄(宮崎あおい)の半生を単発ドラマ化。4Kドラマを謳うだけあって、とにかく映像演出が凝っていた。北斎漫画がスルスルと動き出すCGなんて、大河ドラマのオープニングかと思うくらい。
などと画面をながめつつ、どうも気になるナレーションの多さ。ト書きを全部読むスタイル? 最近は朝ドラのナレーションも「増田です。明美です」なんて変化球が多いから、これも新たな試みか。
それにしてもだ。「出ていく馬琴(野田秀樹)。後を追うお栄。土間」。土間かーい! 土間ってナレーション斬新すぎる……と、ここでハッと気づきました。
こ、これは何かの塩梅(あんばい)で、解説放送を流してた私(解説放送とは、目の不自由な方たちのために、情景描写などを補完的に説明する音声です)。ああ、驚いた。
しかし、細やかに状況説明してくれるこの音声、お栄と池田善次郎(松田龍平)が情を交わした場面はなぜか無言。「襦袢(じゅばん)姿のお栄、善次郎の傍らで煙管(キセル)をふかす」などという説明はなく、「善さんの優しさは毒だ。私はとうとう毒を食らう」というお栄のセリフのみ。さっきは土間まで説明してくれたのに、ここだけ「察して」ってことかしら?
まぁ実際このドラマ、73分と時間が短いこともあり、お栄と善次郎の関係を含め人間ドラマはさらりと流していく展開。むしろお栄が描いた作品、「吉原格子先之図」などの光と影の表現をいかに実際のセットや照明で再現できるか。そんな映像的挑戦が際立っていた。
対岸で起きた大火を見に駆け出すお栄。現代のようにスマホでたやすく写真や動画を撮るなんて、夢にも思わぬ時代。その炎の赤をひたすら目に焼きつける。
そんな絵師の業を描きながら、対岸の火事のCG映像はまことにデジタル的に美しい。遠い江戸という時代を緻密に再現しようとすればするほど、「これってインスタ映えするよね」的見栄えの良い映像になっちゃうのはなぜだろう。なんだか無臭で清潔そうな。
それはヒロインを演じた宮崎にも言える。伝法な口調ですっぴんをさらし、特殊メイクで老女にもなった。けれどシワシワでも決して醜いことはなく4K映像に堪えうる仕上がり。その演技、きっと「いいね」を山ほど貰えそうなインスタ映えする北斎の娘だった。
※週刊朝日 2017年10月6日号