「日常的に行うデジタル動作の中で、いかに漢字そのものに注意を向けさせるかを考えて設計しました」

“妨害による支援”をテーマに、人々の日常活動を支援する技術の研究開発を行う西本一志教授(北陸先端科学技術大学院大学)は言う。

 同システムを活用すれば、間違った漢字を正しい漢字に修正する過程で、正しい漢字の形が記憶されるという。実際に、西本教授が行った調査では、同システムで漢字を練習した人は、手書きで練習した人の約2倍も、漢字書き取りの点数が高いという結果が出た。

「あえて妨害を設けて、人の能力や創造性を高めることを、“妨害による支援”と呼んでいます。便利さだけでは、人の日常活動レベルは低下してしまう。日常の中で、いかに妨害を設けるかを考えるのはおもしろいことですよ」

 不便や妨害を、あえて日常に取り入れる考え方について、「そんな面倒なこと、いちいちやってられるか」とツッコむあなたにも聞いてほしいのが、「不便=脳トレになる」という指摘だ。不便というハードルは、脳にも効くという。脳科学者の篠原菊紀さん(諏訪東京理科大学教授)は言う。

「不便を体験することは、思考や創造性を担う最高中枢である前頭前野を中心に、脳を活性化させる働きがあります」

 例えば、包丁で野菜の皮を剥く場合と、ピーラーを使う場合では、面倒な包丁のほうが脳トレになる。鉛筆削り機より、ナイフで鉛筆を削るほうが、脳が活性化するのもしかりだ。

「サービスや商品の開発は、不便を減らす方向に進んでいますが、言い換えればそれは、脳に負荷がかからない方向に進んでいるということ。だからたまには、あえて不便を体験するという脳トレを取り入れてみるのも手ですよ」

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