何事も効率化が優先され、便利さばかりを追い求めがちな現在。そんな今、注目されているのが、日常にあえて「不便」を取り入れるという考え方。「わずらわしい!」と言う前に読んでほしい。不便は、運動能力や気力のアップばかりでなく、脳トレにも効くという。

 坂のように傾斜のある廊下に、段差を設けたフロア、ふぞろいのいす──。東京都世田谷区にあるデイサービス施設「夢のみずうみ村」(契約者数約340人)は、一風変わった介護施設だ。

「多くの高齢者施設がバリアフリーに徹する中で、真逆の発想を取り入れたのがこの施設です」(施設長の半田理恵子さん)

 真逆の発想とはつまり、意図的に「バリアー(不便)」を設けること。コンセプトは、階段や段差、傾斜など、日常で遭遇する可能性のあるバリアーをあえて配置した“バリアアリー”施設だ。

「意図的にバリアーを設け、その克服方法を体感する中で意欲を高めてもらいたい。ひいてはそれが、自分の生活範囲を広げることにつながると考えています」(半田さん)

 その発想はハード面だけに限らない。利用者へのサービスといったソフト面にも取り入れている。施設でどんなふうに一日を過ごすかは、利用者自らが毎朝決める。全ては、自分で選択し、決定する。同施設のサービスの根底にあるのは、あえて「おもてなしをしない」という考えだ。

 試しに、利用者の一日をたどってみよう。朝、来所すると、まず取り組むのが一日の予定を立てること。カラオケ、パソコン、カジノ、囲碁、折り紙、パン作りなど、数え切れないほどのメニューの中から、午前と午後を何をして過ごすか決める。ゆっくりしたければ、「のんびりする」などを選べばいい。職員が「こんなメニューをやってみませんか?」と問いかけはするが、画一的なプログラムは用意していない。

 昼食時も、上げ膳据え膳はなし。利用者は食堂で、茶わん、湯のみ、お箸が入った自分の保管箱を探し、箱から器類を出してお膳に並べる。中央に並んだ鍋や大皿から、好みの分量をとって自分で盛り付け、テーブルに運ぶ。ワゴンが用意されているため、基本的にはつえなしでテーブルまで移動。食後も自分で下膳。介助が必要な場合は職員が手助けするが、車いすの人も障害がある人も、自分で配膳下膳するのがルールだ。

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