西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒 養生訓】(巻第一の28)
いにしへの人、三慾を忍ぶ事をいへり。
三慾とは、飲食の欲、色の欲、睡(ねぶり)の欲なり。(中略)
只(ただ)睡の慾をこらえて、いぬる事をすくなくするが
養生の道なる事は人しらず。
養生訓では睡眠についても語られています。面白いのは睡眠を食欲、性欲と並ぶ欲望のひとつと考えて、この三欲はいずれも抑えなければいけないと説いているところです。そして、「飲食、色慾をつつしむ事は人しれり。只睡の慾をこらえて、いぬる事をすくなくするが養生の道なる事は人しらず」と続きます。
睡眠を少なくすることが養生の道であることは知られていないというのですが、これは確かに意外です。
その根拠として、「ねぶりをすくなくすれば、無病になるは、元気めぐりやすきが故也。ねぶり多ければ、元気めぐらずして病となる」というのですが、いまの医学から見れば、あまり説得力がありません。確かに寝すぎは、体にいい影響を与えないでしょうが。
むしろ、現代人は眠りが少なくて、体調が不良だと悩む人が多いのではないでしょうか。益軒のいう眠りの欲望が満たされていない人が多いのです。
この悩みの一因になっているのが、理想の睡眠は8時間だという考え方です。「自分は8時間も眠れていない。だから、調子が悪い」となるのです。
しかし、理想の睡眠は8時間ということもまた、医学的な根拠がないようです。まず年齢によって睡眠時間が違いますし、個人差も大きいのです。
欧米の調査ですが、約3500人を対象に年齢別に平均の睡眠時間を調べたところ、5~10歳では8時間以上寝ますが、15~25歳は7時間台、30~65歳は6時間台でした。70歳を過ぎると5時間台になってしまいます。年齢が上がるにつれて、睡眠時間が減るのは自然なことで、大人になってからも8時間寝る必要はないのです。日中の身心が軽快で元気で働けるようなら、十分に睡眠が取れているということでしょう。