
落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「記憶」。
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家族旅行で鹿児島に来てます。旅の合間に原稿書いているところです。
しかし、まぁめちゃくちゃ暑い。東京の5割増しといったかんじです。なんで夏場に鹿児島を選んでしまったんだろう? でも指宿の砂むし風呂、気持ちいい。芋焼酎、うまい。人間、優しい。桜島、でかい。
去年の今頃は、ヨーロッパ公演の最中。ちょうど夏休み中ということで、無理して家内と子供3人も同行させたのです。
16日間でベルギー・ポーランド・フィンランドを巡るという、子供にしてみればとんでもない大旅行です。今回の鹿児島行きの飛行機の中で「去年のヨーロッパのこと、何か覚えてる?」と子供たちに聞くと、
末娘(小1)「そりゃあ覚えてるでしょ! フィンランドでスーパーに行ったよ! 壁のぼり(ボルダリング)して遊んだ!」
※ヘルシンキのイオンみたいなところにある子供向けアトラクション。小さい思い出だな。
次男(小3)「ワーテルローでナポレオンが負けた話の映画を観た! つまらなかった!」
※歴史館で観た資料VTRのこと。確かに陰気なつくりだった。とはいえ、まずそれか……。
私「……ほかには?」
二人「なんかあったかな……」
おい。いろいろあったろう? もっと貴重な体験があったと思うのだが覚えてないのか?
もっとも、私も小学1年生のころ家族で千葉の鴨川へ旅行に行きましたが、大人になった今でも覚えていることは……。
・親父のたばこの臭いが染み付いた車内で、車酔いでゲーゲー泣きながら鴨川に向かったこと。
・民宿の風呂の浴槽が岩場のような造りになっていて、よじ登ったら足を滑らせて身体中にかすり傷がいっぱいできて、海水がしみて泣いたこと。
・海岸で遊んでいたら、テトラポッドにへばり付いていたフナムシが、頭の上に大量に落っこちてきて、海水パンツに入って号泣したこと。