
池波志乃(いけなみ・しの)(右)/1955 年、東京都生まれ。落語一家に生まれ、高校を中退し、俳優養成所に入所。74年から女優として本格的にスタート。83年に「丑三つの村」での大胆な演技が話題に。90年代半ばから演劇活動から離れ、現在はタレントとして活動するほか、書評家やエッセイストの顔も持つ。(撮影/写真部・大野洋介)
1978年に結婚し、以来40年近くおしどり夫婦として暮らす中尾彬と池波志乃。しかし夫婦二人だけの生活を築くまでに、妻には葛藤もあったという。
※「池波志乃 中尾彬に『浮名を流すくらいじゃないと困る』」よりつづく
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妻:結婚1年目に子宮外妊娠をしちゃったんです。それで仕事場で倒れた。手術をして数カ月休んで、そのときに初めて「あ、いろいろ考えないといけないんだ」と思った。女優さんは子どもを持つとベビーシッターやお母さんに面倒を見てもらうのが普通だったけれど、そのときうちの母は家に病人を2人も抱えていて、とても頼めなかった。
夫:結婚して4年後にお父さんは亡くなったから。
妻:私には人に頼んでまで子どもを産み育てたいとは思えなかったんです。ならば仕事をやめるか、子どもを持つかどっちか。だからとりあえず子どもを持つことをやめたんです。そのうちに「二人の心地よい生活」が確立されちゃった。
夫:僕も欲しがらなかったし。
妻:それに中尾さんがあまりお父さんに向かない人だというのもわかってきた。自分も子どもでいたい人だから。私は「自分にできないことはやらない」が信条。子どもを産まないという選択もその一つだっただけ。ストレートに生きてきちゃっただけなんです。
夫:それでいいんじゃない? “いいお父さん”なんて、僕からみると最低。夫婦で子どもを抱えた年賀状なんか見ると、すぐ破っちゃいたくなるね(笑)。自分はそういう道を選んで生きてこなかったから。
妻:“自分の求めている役者として”選んでこなかった、という意味ね。
夫:そう。これはあくまでも僕の意見ですから。僕にとってはものをつくるほうが大切だし、楽しい。
妻:役者はいろいろ。子どもができて役者として成長したという人がいるのも当たり前。でも中尾さんはこうやってテレビでも極端なことを言うから、よく誤解を生むんですよ。
――夫の過激な発言の裏を、妻は常に読み取る。自分の論理に筋を通し、粋を好み、やぼを嫌う。生き方の美学が二人をつないでいる。