林:恩田さんの才能はとどまることを知らずという感じですね。『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞(05年)をおとりになって、ほかの賞では人気バツグンなのに、直木賞だけはなぜか縁がなくて。

恩田:向いてないのかなと思うこともありました。

林:6回目のノミネートですよね。選考会で、「恩田さんはコンペティションに向いてないんじゃないか。自分の世界があるから、その世界について評価すること自体が間違っているんじゃないか」という声があったのを覚えています。頑丈なお城ができていて、そのお城をどう評価したらいいのか、よくわからなかった時期もあったような気がします。

恩田:そうなんですか。

林:私も選評に書きましたが、このごろ、若い作家は3、4回候補になると、「つらいので候補からはずしてください」って言うんですよね。

恩田:気持ちもわからなくはないんですが、編集者に対する賞でもあるわけじゃないですか。だから、「候補にしてくださるなら受けますよ、いくらでも」という気持ちでした。

林:“待ち会”は毎回やったんですか? 私も3回落とされたんですけど、「こんなにたくさんの人たちで待ってるから落ちるんじゃないか」と思って、3、4人で待ったこともあるんです。それでも落ちたから、もうカンケイないやと思って。

恩田:開催したりしなかったりですね。「ここで待つとゲンがいい」みたいな場所がはやった時期もありましたよね。今回はやらないつもりだったんですけど、みなさんに「やらないんですか」って言われて……。

林:何人ぐらいで待ったんですか。

恩田:30人ぐらいですかね。でも、「これで落ちたらシャレにならないな」と思って、いたたまれなくて。

林:私も、選考を待ってるあいだいたたまれなくてマージャンをしに行ったら、来る手、来る手、役満ばっかりで、逆に怖くなりました(笑)。編集者に「ここで運を使わないでください」と言われましたが、結局そのときに賞をいただいたんです。

恩田:波はありますよね。『蜜蜂と遠雷』は何もしなくても読んだ人がいろんな人にすすめてくれて、「祝福された小説」だと感じました。

週刊朝日  2017年8月4日号より抜粋

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