音楽業界という一見華やかな世界に身を置き、成功も収めている平井さんだが、元々コンプレックスが強い性格。年齢を重ねるごとに、どんどん自分の考えや感覚を信用しなくなってきているらしい。
「ただ歌うことが好きで、たまたま運良くデビューできただけで、“アーティスト”と呼ばれ、ビジュアルから何から、音楽以外の感覚もすべて優れていると思い込まれることには、昔から抵抗がありました(苦笑)。少なくとも僕は全能ではないし、むしろ人間は欠落や欠損した部分があってこそ面白くて、奥深いものだと思う。20代の頃なんかは、アーティストとして振る舞おうと、肩肘張っていたときもあったけど、やればやるほど自分の凡庸さに気づいてしまって……(苦笑)。だから今、歌以外での自我はないに等しいですね。自分を疑い、周囲の感覚を信じるという意味で、最近はチームプレーの良さを実感しています(笑)」
自分の柄や器の小ささを知ることに一抹の哀しみを覚えつつ、「その事実を受け入れた上で、迷いや弱さと闘っていくことが人生なのかもしれない」と平井さん。12年ぶりのベストアルバム「歌バカ2」は「自分の闘ってきたしるし」なんだそう。
歌に傷つき、歌に泣く。ノンフィクションの人生賛歌がそこにある。
※週刊朝日 2017年7月7日号