ベストアルバムのジャケット撮影を、操上和美(くりがみかずみ)さんに依頼したのは、平井堅さんたっての希望だった。御年81となる写真界の大家は、撮影を始める前、「あなたは欲深い人だと思う。だから、欲しいと思うものを想像して、それを掴みに行く感じで歌ってほしい」と言った。平井さんは何度も何度も歌った。「無欲なはずの自分が、この手で掴みたいものは何なんだ?」と自問自答しながら。
「撮影中は正直、自分が欲しいものが全然見えなくて、とにかく本気で歌うことしかできなかったんです。ただ、操上さんに言われてあらためて、自分の中の“欲”と向き合ってみると、欲しいものは才能とか称賛、あとはときめきとか感動とか、目に見えないものばかりだった(苦笑)。人前に出る仕事なので、今まで割と称賛されたことはあったと思うけど、もっと欲しいということは、それじゃ足りないんでしょうね。だから、僕は自分が思っていたよりもずっと欲深い人間なのかもしれない」
曲を作るとき頭の中に湧いてくる言葉は、なぜかいつも、人生の暗部や人間の弱さや哀しみにフォーカスしてしまう。先日放送が終了した日曜劇場「小さな巨人」の主題歌「ノンフィクション」も、“明日に向かって頑張ろう”とか、そういう内容の曲にしたくはなかった。
「制作サイドが、暗めの歌詞でもいいということだったので。台本を読んだイメージと、当時たまたましんどさを感じていた自分の精神状態とを、ないまぜにして書きました」