作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、 前川喜平・前文部科学事務次官の「出会い系」バー通い報道について持論を展開する。

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 前川喜平・前文部科学事務次官が出会い系バーで出会った女性の証言を、週刊文春が掲載した。

 記事によれば、前川さんは買春を持ちかけたことは一切なく、多い時は週に2回、女性たちとダーツバーに行ったり、食事をおごったりしていたという。「前田」と偽名を最初に名乗ったことから女性たちからは「まえだっち」と呼ばれ、「キャバクラで働く」と女性が言えば、「就職したほうがいいよ」と助言したり、就職が決まった時はドン・キホーテで「何でも買っていいよ」とお祝いしてくれたという。

 記事が出た日から、「前川さんはいい人!」「前川さんはあしながおじさん!」といった絶賛の声が後を絶たないが、正直、すごく違和感が残る。「あったことをなかったことにはできない」と声をあげた前川さんの勇気に敬意を示しつつ、そこは区別したい。

 説明するまでもなく、あしながおじさんは孤児に奨学金を渡して進学させるおじ様。一方まえだっちは、就職や進学を世話するわけではなく、ただ性的なことを持ち出さなかっただけのおじ様。むしろ女の子たちはまえだっちに気を使い、エルメスのネクタイをプレゼントしようとまでしてる。エルメスのネクタイは2万5千~3万円台だ。まえだっちは「いらない」と断ったそうだが、若い女性がオジサンにそんな高級品をプレゼントしたいと思う関係が、とても日本的なオジサンと若い女の関係だと思う。

 ちなみに友人に、「前川さんと同じことしても、あなたは絶対にいい人とは呼ばれないね、ははは」と笑われた。確かに。私が10代の男の子たちと毎週のように会ってご飯おごっても、「いい人」どころかキモイと罵られるだけだろう。一方、性的なことを求めず、安全で適度な財布になってくれるオジサンの存在は、時代を問わず決して珍しい存在ではない。若い女に過剰な価値を押しつける社会で時々生まれるいびつな関係だが、オジサンは若い女に人生教訓など垂れて自尊心を深められるし、女の子たちにとっては食事と遊びをただで楽しめる損のない関係だ。時代を問わず、まえだっちは、若い女の子たちの間に時々出現する。

 
 安倍政権はとっくに危険水域に入ってる。批判の声を一切受け付けず、疑惑を力ずくでなかったことにしようとしている。そういう力に対して「まえだっちが不正を正している」のは確かだが、こと女性との関係であしながおじさん的な盛り上がりは違うだろう。それは結局、今の今、貧困に苦しみ、出会い系バーで搾取されるような女性たちの現実から目を背けているに等しい。若い女性といるのが楽しくて、ついつい長く遊んでしまったとしても、政権批判はできる。それだけの話だ。

 安倍政権が憎いにしても、安倍政権ラブにしても、「女」を持ち出し、都合よく語るのはやめてほしい。罪悪感を持たずに平然と少女買春し、また女を「売り物」としてバーに誘い込む業者の存在こそ、「調査」したい。

週刊朝日  2017年6月23日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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