選手時代に女子陸上の記録を次々と塗り替え、現在は深い取材による「小ネタ」をちりばめたマラソン解説でおなじみのスポーツジャーナリスト・増田明美さん。作家の林真理子さんがそんな彼女の「小ネタ」を引き出しました。
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林:増田さんは、千葉の成田高校陸上部のとき、監督の自宅に下宿していたんですよね。同い年のライバルの子との同居生活が、すごくつらかったとか。
増田:ライバルがふすま一枚隔てて隣にいるんですからね。住み始めるまで知らなかった。同じ屋根の下に、同じ種目の、しかも力が同じぐらいのライバルと同居するなんて。
林:そうなんですか。
増田:同居していたのは樋口葉子さんという選手ですが、私はすごく負けず嫌いだったので、葉子に負けたくないといつも思っていて。1週間後に試合というときに、彼女の練習タイムのほうがよかったりすると、この1週間で葉子を太らせようと思って、彼女のごはん茶碗にギュウギュウ詰め込んだり、朝練習に遅刻させようと思って時計を遅らせたり。
林:まあ! それって少女漫画みたいじゃないですか(笑)。
増田:彼女とはいま仲がいいんですけど、穏やかな人で、ぜんぜん気づいてなくて「明美、そんなことしてたんだ」って言うんです。彼女がそういう性格だったから、私は日本記録を作れた。彼女が私みたいな性格だったら、あそこで疲れ切って、とてもできなかったと思う。
林:このやさしい増田さんに、そんな腹黒い過去があったとは(笑)。
増田:スポーツはきれいごとじゃないということを、教えてもらいましたね。若いときは未熟だから、勝ちたいという気持ちが強いと、すごく意地悪なこともしてしまう。性(さが)がむき出しになるから、「これも私なんだ」とわかるのもスポーツなのね。
林:一流のスポーツマンって人間的にもすぐれていて、私たち一般人が持っている変な競争心がなくて、さわやかで清廉な人たちが上り詰めていく印象がありますけどね。