「あの文書は私たちがメモを残すときの書式です。同僚のほとんどは本物だと思っている。文科省としては元々、加計学園の申し出に獣医学部の新設は特区になじまないと打ち出していた。それを変えるのは、よほど劇的なことがないとあり得ない。国の方針を変えるんですからね。今回の文書についての省内調査も、『記憶がある?』『うーん……』『じゃあないんだね』という調子で、最初からないことにしたいムードでいっぱいだったと聞いている」
政治アナリストの伊藤惇夫氏がこう語る。
「森友学園の件も加計学園の件も安倍首相が説明責任を果たせているとは思えないが、安倍一強の国会で知らぬ存ぜぬで押し通せば数の力で押し切れる。支持率も下がらない状況になってしまっている」
実際、いまだ48%(16日付朝日新聞)と底堅い内閣支持率を背景に、安倍首相は強気一辺倒だ。
象徴的なのは改憲論議だ。首相は「日本会議」の関連団体が主催する集会(5月3日)にビデオメッセージを送り、憲法9条に自衛隊の存在を明記すること、20年に改正憲法の施行を目指すことを突然ぶち上げた。ジャーナリストの田原総一朗氏が語る。
「昨年9月に安倍首相と会った際に改憲について聞くと、『改憲の必要はなくなった。安保法で集団的自衛権の行使を認めるまでは米国がうるさかったが、認めたらまったく何も言ってこなくなった』と私に明かした。もう改憲しないのかと問うと、『できれば憲法9条の中で自衛隊の存在を認めさせたいと思っている』と答えました」
では、なぜ20年施行なのか。東京五輪の年であることは安倍首相がメッセージでも言及していたが、もう一つ考えられることがある。
政府は19日、天皇の退位のための特例法案を閣議決定した。成立すると、18年末に天皇は退位する。新元号となる19年に憲法改正の発議と国民投票を行えば、20年の施行が可能となるのだ。
「今上天皇は護憲というお気持ちを強く持っており、靖国神社にも参拝しない。安倍首相の思想とは“対立”関係にある。その天皇が退位し、影響力がなくなったタイミングで改憲したいというシナリオはあるでしょう」(田原氏)
だが、首相の強引なやり方に自民党内から批判の声が次々と上がっている。
「麻生さん、二階(俊博)幹事長ら重鎮は2020年改憲について寝耳に水だった。首相は菅官房長官、今井(尚哉)筆頭首相秘書官ら一部の“お友達”にだけ相談していた。森友問題では財務省あげて首相を庇(かば)ったのに、と堪忍袋の緒が切れたようです。“乱”が起こらなければいいが……」(政府関係者)
(本誌・小泉耕平、大塚淳史/今西憲之)
※週刊朝日 2017年6月2日号記事に加筆