新基準では、傷の有無は無関係で、患者が訴える症状とBUT(涙液層破壊時間)と呼ばれる検査結果のみで診断が可能となった。これは、まばたきしない目を開けた状態でどれくらい涙が表面に保たれているかをみる検査のこと。5秒以内に涙の層の乱れが確認されると「異常」と判定される。このような涙の層が崩れやすいタイプを「BUT短縮型」と呼ぶ。
改変理由の一つは、いままで「ドライアイの疑い」と診断されてきた、目に傷はないがBUTが短いタイプ(BUT短縮型)に、つらい症状を抱える人が多いことがわかってきたからだ。
ドライアイは、原因によって複数のタイプがある。そもそも涙の量が少ないタイプや、涙は出ているのになんらかの原因で減少しているタイプなどだ。
涙の量が少ないタイプには、「涙点プラグ」という手術がある。片目に二つある涙の出口(涙点)をプラグで塞ぐ。
「涙の量が少ない人には劇的な効果が期待できますが、症状が重いBUT短縮型に単純におこなっても改善は見込めません。このタイプのなかには涙の量は正常な患者さんもいるので、逆に涙が溢れて困るという弊害も出てきます」(同)
ならば、つらい症状をどうやって解消させるか。ここ数年で複数の点眼薬が処方できるようになり、個々のタイプに合った薬を選択することで、症状の改善が見込めるようになった。
京都府在住の野田勝さん(仮名・35歳)は、1日10時間近くパソコン画面と向き合っている事務作業員だ。毎日夕方になると目がしょぼしょぼし、疲れ目もひどく、とても仕事に集中できない。市販の目薬を使っていたが、症状はおさまらない。眼科を渡り歩くもドライアイと診断されず、処方薬が効かない。そこで京都府立医科大学病院を訪れた。野田さんを診察した横井則彦医師は、こう話す。
「野田さんは、コンタクトをしたままさせる防腐剤の入っていない目薬を使用していたようです。人工涙液というもので成分は電解質です。軽い症状に役立つこともあり、使っている人も多いですが、使いすぎは禁物です。1日10回以上さすと、目の細胞が傷み、症状を悪化させてしまうこともあると言われます」