
哀愁をちぎっては投げ、ちぎっては投げのマイルスに感涙
Frankfurt Live (Sapo Disk)
会場に鳴り響くグレース・ジョーンズの《ドント・クライ・イッツ・オンリー・ザ・リズム》が雰囲気を盛り上げ、マイルス以下バンドの面々が登場したのだろう、拍手歓声がこだまし、しかしこの盛り上がりは先が思いやられるなあと気持ちを引きしめた直後、観衆のざわめきは遠のき、よほどいい場所で録音したのだろう、バンド・サウンドが前面にせり出し、いいぞマイルスどんと行けと思ったとたんの《パーフェクト・ウェイ》の軽さがたまりません。
よくもマジメな顔して吹けるものだと思うが、マイルスの一音一音にはジョークも笑いもなく、この冗談のような曲を例によって例の如く一級のアートのレヴェルにまで引き上げる。しかるにケニー・ギャレットは、それが才能の限界というものだろう、いくら真剣に吹いても音のど真ん中に笑いがあり、楽曲にも増して軽い存在に映ってしまう。5分を過ぎたあたりからのマイルス、朗々と鳴り渡るオープン・トランペットの響きにじっくり耳傾けてほしい。誰に言ってるの? ケニーにです! しかしこういう問題は耳傾けて解決するものでなく、まあここらあたりがケニー及び晩期マイルス・バンドがかかえていた本質的なウィークポイント&限界でもあったわけです。
おお本日の《ハンニバル》における哀愁もまたまた格別ではないか。開始1分20秒前後でリズムが一瞬ストップ、そのスペースに不要になったメモをちぎっては捨てるかのようなマイルスの感覚はほんとうにすばらしい。ケニー君がそのマイルスが落としていった紙切れを拾いつつほふく前進、マイルドなサウンドを出して、なかなかの味。しかしそれもマイルスがオープンで吹くまでの命、ひとたびマイルスがマイルストーンを吹き放つやケニー君、ショボンとしぼんでしまいます。なぜか本日はケニー・ギャレットに辛く当たっているような気がしないでもないが、まあいいか(本人、日本語読めるんですよね)。
会場となったフランクフルト・アルテ・オパーとは旧オペラ座のことらしく、まったくマイルスに似つかわしくないが、もう《ヒューマン・ネイチャー》まで突き進んでしまったのだからしようがない。案内によれば、 第二次世界大戦中の1944年3月22日夜中の爆撃でほぼ完全に破壊されたが、 市民運動による募金などによって再建が実現、同時に歌劇場からコンサート・ホールへと生まれ変わり、1981年、マーラー「交響曲第8番」の演奏によって甦ったという。おいおいマイルス、そこまで熱く吹いて壊したらダメですよ。ダンッ! ほらほら、言わんこっちゃない。
【収録曲一覧】
1 Perfect Way
2 Star People
3 Hannibal
4 The Senate / Me And You
5 Mr. Pastorius
6 Human Nature
7 Time After Time
8 Wrinkle
9 Tutu
10 Don't Stop Me Now
11 Carnival Time
(2 cd)
Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, ss, fl) Kei Akagi (synth) Foley (lead-b) Richard Patterson (elb) Ricky Wellman (ds) Erin Davis (per)
1990/11/6 (Germany)