専用のノズルとフィルターをつけた掃除機で自宅と仏壇店のホコリを集め、大学の研究室で抗原量を測定。職場は基準値の5倍。羽毛製品を処分した自宅も、職場復帰前より増えていた。
「自宅玄関に入る前に、服のホコリをはらうなど気をつけていました。それでも防ぎ切れないのですね」
両親の介護が重なったこともあり、その年の秋に伊藤さんは仕事を辞めた。いまも療養を続けている。
東京都港区に住む鈴木幸子さん(仮名・68歳)は突然、咳と息切れに苦しむようになった。糖尿病のかかりつけ医から、咳止めを処方されたが効果はない。
東京医科歯科大での検査で、鳥によるアレルギー性の肺炎と判明。10年前から使い始めた羽毛布団や羽毛素材のひざかけ、夫が愛用するダウンベストも処分した。
鈴木さんが言う。
「年をとると、重量のある綿布団やコートはしんどい。夫も肩こりがひどいからと、羽毛製品を愛用していたの。まさか病気の原因になるなんて……」
鈴木さんは咳ぜん息も併発しており、症状はなかなか緩和されないという。
「どこで抗原を体にためてしまったのでしょう。確かに、自宅周辺はハトが多く、ふんだらけの場所もあります。昔は、ハトがたくさんいる公園で子どもと一緒に遊んでいましたから、そのときなのか」(鈴木さん)
冬は風邪を引いて当たり前。鈴木さんはそう信じていた。だから、風邪と咳が続いても疑問に思わなかった。鳥アレルギーによる肺炎の症状が出るたびに、処方された風邪薬を服用し、なんとなくやり過ごしてきたことが悔やまれる。そう、鈴木さんはつぶやいた。
宮崎教授によれば、鳥やカビなどの抗原によるアレルギーによる「過敏性肺炎」の潜在患者数は、国内で数千人と推定される。
正確なデータはない。実は、鳥によるアレルギー性肺炎について、専門知識と臨床経験を持つ医療機関は全国でも少ない。通り一遍の問診と画像診断では、原因を見逃すこともある。
「呼吸器科の医者でも、患者さんに、『鳥を飼っていますか』『羽毛布団は?』とは確認しませんからね。他院から紹介された慢性の過敏性肺炎の患者さんは、4割が前の医師から原因不明の肺炎と診断されていたのが実情です」(宮崎教授)
※週刊朝日 2017年3月17日号より抜粋