年齢を重ねると寝具やコートの重みが負担になる。軽くて暖かな羽毛布団やダウンジャケットを手放せない読者も多いだろう。だが、鳥由来の抗原が悪さをする鳥アレルギー性の肺炎をご存じだろうか。
関東地方に住む伊藤幹さん(仮名・37歳)は、大学卒業後、地元の仏壇店に勤めていた。
多忙だが充実した毎日。だが、いつのころからか疲労感が抜けなくなった。風邪も頻繁に引く。伊藤さんは、健康によさそうだと考え羽毛布団を購入した。
だが、改善がないどころか、冬には高熱を伴う風邪をこじらせるようになった。
3年後の冬、激しい頭痛を訴え、救急車で搬送された。CTスキャンで肺炎と診断。年末にふたたび肺炎で倒れた。会社の健康診断で、炎症を起こした肺胞の壁が硬く線維化する「肺線維症」だと指摘された。
「仕事は続けたが、息苦しくてたまらない。精密検査でも原因がわからず、春に東京医科歯科大学病院に入院しました」(伊藤さん)
内視鏡手術も検討されたが、検査で鳥によるアレルギー性の肺炎が疑われた。
伊藤さんを診察した同大呼吸器内科の宮崎泰成教授がこう話す。
「鳥が原因で起こる肺炎です。ハトやインコといった鳥の羽やふんに含まれる、タンパク質(抗原)を吸い込むことで、アレルギー反応を起こす肺炎です。正確な診断名を『鳥関連過敏性肺炎』と言います」
一般的な肺炎は、細菌やウイルスが肺で増殖して炎症が起こる感染症だが、それとは異なり、アレルギー性であることが特徴だ。咳(せき)が2週間以上続けば、過敏性肺炎の可能性がある。
宮崎教授によれば、鳥の主な抗原は2種類。ひとつは、タンパク質を含む「ブルーム」と呼ばれるフケのようなもので、鳥の羽の表面についている。ふたつめは、ふんに混じる「免疫グロブリン」という血清タンパク質だ。
鳥の抗原を吸入する検査で、伊藤さんは40度の高熱を出した。診断がついた。
「すぐに、羽毛布団を含む布団一式と自宅の羽毛製品、抗原がついた可能性のあるカーテンまで処分しました。掃除機を徹底的にかけて、空気清浄機も購入しました」(伊藤さん)
2015年の春、1年ぶりに職場復帰を果たす。
だが、勤務2日目。体が熱っぽく、咳が出た。
「風邪かなと思いながら仏壇の掃除を続けました。ふと、右手に握る毛ばたきを目にして驚きました。『天然羽』と印字されているのです」(伊藤さん)
外回りの仕事に異動したが、客の案内などで会社に戻ると具合が悪くなる。