ジャズ・イン・サルデーニャ1986
ジャズ・イン・サルデーニャ1986
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サルデーニャ島で飛ばしまくるマイルス
Jazz In Sardegna 1986 (Cool Jazz)

 アメリカからカナダ、そこからヨーロッパと、日本の夏はキンチョーだがマイルスの夏は世界ツアーで大忙し。したがってブートレガーも発掘作業に忙しく、ここ何年かは「ここまできたら毎晩各セット完全制覇」の勢いに弾みがつき、まさにツアーのスケジュールを埋めるべく各地でのライヴ音源が出揃いつつある。ビートルズ、ボブ・ディラン、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンに匹敵する壮挙にして暴挙、はたして最後まで付き合う人間、ナカヤマヤスキ以外、何人いるだろう(ゼロだったりして)。

 さてさて1986年度マイルスの夏も多忙を極め、トリノの2日後、イタリアにおけるライヴがこのクール・ジャズ盤2枚組となる。今回の舞台は地中海に浮かぶサルデーニャ島。アルバム・タイトルから想像するにジャズ・フェスティヴァルが催された模様。そのフェスティヴァルにマイルスも出演したということだろうが、こうして過密ブート地獄を仔細に追っていくと、マイルス、地球上で行かなかった場所はなかったのではないかと思えてくる。ちなみにサルデーニャ島はシチリア島に次ぐ大きな島、広さはほぼ四国と同じとか。さらに加えてサルデーニャといえば羊というくらい放牧が盛んとも。へーそうなんですか。

 そんなところにマイルスを放り込んで大丈夫か。本日も冒頭《ワン・フォン・コール》から飛ばしまくり、早くもこの時点で羊の何十頭かはバリカンで毛を切られ、周囲一帯、羊毛の山と化しているのではないか。その一部は茶系にカラーリングされ、後日マイルスの頭部に装着された可能性がないとはいえない。明らかに録音のせいだろう、ヴィンス・ウイルバーンのドラムスがいつもより重く、これはこれでなかなかの味わいかと。ともあれ音質、バランスとも迫力満点、マイルスのオープンもさっき磨いたように輝かしい。

 なんと失礼なことをと叱責の声が届く前に《スター・ピープル》突入、ここで羊毛作業は一段落する。なんというブルースなマイルス、この種の演奏が得意なロベン・フォードもキコキコと弾き倒し、思わず「この人、もっと総体的に高く評価してもいいかな」という気にさせる。5分25秒あたりでギター・ソロを打ち切られ、そこから《メイズ》にもっていく瞬間がかっこいい。これはロバート・アーヴィングの功績だろう。マイルスも飛ばしに飛ばし、すべての音の中心にパワーと熱気が渦巻いている。なお初版では最後の曲が《アル・ジャロウ》となっているが正しくは《トーマス》です。この哀愁は、ホント、いつ聴いても胸に迫ってくる。同曲収録の『TUTU』は再評価されるべきだろう。

【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Maze
4 Human Nature
5 Portia
6 Splatch
7 Time After Time
8 Carnival Time
9 Tutu
10 Burn
11 Tomaas
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Robben Ford (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Felton Crews (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1986/7/9 (Italy)