金原ひとみさんの『クラウドガール』(朝日新聞出版)、綿矢りささん『私をくいとめて』(同)が、このほど同時期に出版された。芥川賞W受賞から13年。タイプの違う作品を書いてきた2人が、小説について、人生について、自由に語った。
* * *
──朝日新聞で同時期に連載小説を担当した金原ひとみさんと綿矢りささん。お互いの小説の感想は。
綿矢:今回の金原さんの小説(『クラウドガール』)を読みながら、夏目漱石の『こころ』を思い出しました。姉妹と母との一連のシーンを通して、「生きる」ことを考えさせられる。金原さんの、小説からの「逃げなさ具合」は、私にはまねできない。人間をえぐり出す深みがキワキワなんです(笑)。
金原:理性的な姉と奔放な妹、私は両方に感情移入をしていて、それぞれに憧れと軽蔑も抱いてる。そして彼女たちを振り回して死んでいった母親にも、同じ気持ちがあります。3人が合わせ鏡のようになって、まさにその真ん中に立つようにして書きました。
綿矢:一番印象に残ったのが、妹の記憶です。物語の結末にかかわるので詳しくは言えないのですが、妹が姉に言うせりふは泣けました。
金原:そこを言われると私も泣けてくる。私は、綿矢さんの『私をくいとめて』を読んで、このテーマで書ける作家は確かに綿矢さんだなって思った。日本の今の女性が置かれている立場での葛藤がすごく明確に描かれている。登場人物も、最初は全員に対してモヤッとしていたんだけど、最後は全員がいとおしくて。綿矢さんは小説に選ばれたような作家さんだなあと痛感しました。
綿矢:今回は「一人でいられるからって一人でいるべきなのか」を考えた小説。いままでは愛や恋など感情がすべてだったけど、書きながら、強い思いがあって男女が結ばれるばかりでないと気づいた。性や年齢の違いの関係も超えて、好き嫌いの感情以外の「繋がり」に出合えました。この小説をきっかけに、これからも、こういう作品を書いていきたいな。