やっぱりマイルスはいいなあ、やめられないなあ
Royal Festival Hall 1987 (Cool Jazz)
リッキー・ウェルマンの足はどうなっていたか。その積年の疑問に回答を与えてくれるのがこのライヴだろう。いきなり《ワン・フォン・コール/ストリート・シーンズ》からウェルマンのバスドラが下腹部を刺激し、「おお、いつもとちがうぞ」と期待を抱かせる。この音質とバランスはすばらしい。こういう音こそ、ワタシ、待っていたのです。かつて73年レインボウ・ライヴがアル・フォスターの強烈なバスドラが聴こえることで話題になったが、このウェルマン音はそれに匹敵する。これだからマイルスは、ブートは、リッキー・ウェルマン追っかけはやめられない(いつから追っかけになったんだ?)。
それにしてもイギリスって不思議な国だと思いませんか。ビートルズを生み、ブリティッシュ・ブルース・ロックを生み、プログレッシヴ・ロックやジャズを送り出し、マイルス関係でいえばジョン・マクラフリン、デイヴ・ホランド、ポール・バックマスター等を輩出、どうしてイギリスだけがそのような離れ業をやってのけることができたのか。それに応じて音楽ファンの耳も肥えているのだろう、当然ミュージシャンのほうも燃えないわけがなく、マイルスもイギリスで例外なく生涯の名演を残している。このロイヤル・フェスティヴァル・ホールにおけるライヴも強力かつ集中度高く、87年でも屈指といっていい出来栄え。冒頭9分過ぎや《ヒューマン・ネイチャー》のアタマなどで瞬間的に音のレヴェルが落ちる部分があるが即座に復調、前述ウェルマンのバスドラをはじめ、ほとんど支障なく思わず聴き込んでしまう。めぼしい音源は出尽くしたと思いきや、クール・ジャズさん、またまたおいしいところを出していただき、マイルスになりかわり厚く御礼申し上げますってキャンディーズか。
後半にいってみよう。《リンクル》はフェイドイン・ヴァージョンだが、どこから聴いても成立する曲なので気にしない、気にしない。それよりなにより本日の《TUTU》の超かっこいい導入部ときたらどうだ。マイルスがピヒャーとソロでロングトーンを来週の金曜あたりに着地する感じで一直線に吹き放ち、そこにダンッって、あなた、かこよすぎます。この部分、音質がやや劣化、しかし気にしない、気にしない。しかし次の《ムーヴィー・スター》のテーマ・メロディーはいつ聴いても気になるなあ。これ、マイルスが演奏すべき曲ではないだろう。ところが《スプラッチ》がきてすべて帳消しとなり、おおーやっぱりマイルスはいいなあ、やめられないなあ。
【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Perfect Way
4 The Senate / Me And You
5 Human Nature
6 Wrinkle (incomplete)
7 Tutu
8 Movie Star
9 Splatch
10 Time After Time
11 Tomaas
(2 cd)
Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Foley (lead-b) Darryl Jones (elb) Ricky Wellman (ds) Mino Cinelu (per)
1987/6/29 (London)