ウィーン1986
ウィーン1986
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コーフンを禁じえないマイルス者のワタシではあります
Wien 1986 (Cool Jazz)

 1986年11月2日、オーストリアはウィーンでのライヴ。ただし会場は不詳、しかしながら広がりのあるサウンドはどうも野外っぽい。そのせいだろう、オーディエンス録音ながらも自然な鳴りに「またか」と思いつつ気がついたときは首までどっぷりはまり込んで、もう抜けない。思うにマイルスの野外ライヴとはこのような音質と広がり、そして形状ではあった。ともあれウィーン・ライヴ、いつもと気分を変えて後半からいくとしよう。

 CDでは2枚目の1曲目にあたるのが《サムシングス・オン・ユア・マインド》、これはしかし名曲ではあります。たしかに原曲は軽いファンク・ポップスだが、マイルスが取り上げるととたんに昇格するから不思議。とくにミュートからオープンに切り替えてからの哀愁が圧倒的にすばらしい。さらに本日はボブ・バーグが凛々しくも潔く、じつにハードボイルドなソロをぶつけ、マイルスの哀愁をさらに引き立てている。そして《タイム・アフター・タイム》に突入、ジョー・ザヴィヌルの同胞にあたるみなさんが熱い歓声を送り、それに気を良くしたのかマイルス、いつもよりちょっと速めのテンポで珠玉のメロディーを吹き散らかし、しかしその散らかしには意味があり、最終的にはナスカの絵文字のように美しい世界が浮かび上がる。ギターのガース・ウェーバーがひきつり気味のソロで、なかなかの健闘。着飾り過ぎのシンセサイザーの合いの手がやや興醒めか。

《フル・ネルソン》はマイルス的には品格に欠けるメロディーをもった陽気な曲だが、部分的に壊しつつ進行するパートが用意され、その壊し方がじつにかっこいい。ガース・ウェーバーの硬質なギター・サウンドがもっともしっくりくるタイプの曲ではある。次にくるのが《ドント・ストップ・ミー・ナウ》、そして一拍置いて《カーニヴァル・タイム》へとなだれ込むアレンジはすでに耳タコではございますが、始まれば始まったでマイルスと我々マイルス者としては突き進むしかなく、どうやらリッキー・ウェルマンとスティーヴ・ソーントン双方にも異存はなかったらしく、お2人かなり突き進み、それはそれはエキサイティングでエネルギッシュ、やがてダリル・ジョーンズが勇躍参加、ますます突き進み、この人たち、マイルスがそこにいることを完全に忘れているのではないか。つづく《トーマス》で四散した脳みそが再度集結、いつものマイルス・バンドとしてのIQと品格と節度を回復させる。かと思ったら《バーン》に《メイズ》ではマイルスまで脳みそを飛び散らせ疾走に次ぐ疾走、うーん、コーフンするなあ。

【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Perfect Way
4 Human Nature
5 Wrinkle
6 Tutu
7 Splatch
8 Something's On Your Mind
9 Time After Time
10 Full Nelson
11 Don't Stop Me Now
12 Carnival Time
13 Tomaas
14 Burn
15 Maze

Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Garth Webber (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Darryl Jones (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1986/11/2 (Austria)