マイルス・デイヴィス・イン・スペイン1983
マイルス・デイヴィス・イン・スペイン1983
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録音前の《ユアー・アンダー・アレスト》初登場か
Miles Davis In Spain 1983 (Cool Jazz)

 マイルスとジョン・スコフィールドの共作《ユアー・アンダー・アレスト》は1984年12月26・27日、ニューヨークのレコード・プラント・スタジオでレコーディングされ、同名のアルバムで登場した。発売は約1年後の85年、秋。超難解にして超かっこいい曲。ところがこの83年10月25日スペインにおけるライヴには、その《ユアー・アンダー・アレスト》が収録されている。ただし完成形ではなく、かなり粗い初期ヴァージョン。これがどのように発展して《ユアー・アンダー・アレスト》になったかを検証するのはかなりの難事業だが、ともあれここでこの曲が(しかも状態のいい音質で。とくに2枚目)聴ける喜びは大きい。格言「ブートレグは記録性にあり」とはこのことだろう。

 ちなみに《ユアー・アンダー・アレスト》はジョン・スコフィールドがたまたまギターで弾いたフレーズを再利用してつくられた曲。そのわりには難易度は異常に高いが、スコフィールド時代を象徴するハードボイルドな曲の最右翼。そう、スコフィールド時代のマイルスとは別称「ハードボイルドだどオレたちは時代」といわれ(どこで?)、演奏はもちろんレパートリーにも強面曲が揃っていた。《ジャン・ピエール》がもっとも険しい表情をみせ、苦汁に顔をゆがめていたのもこの時代。《ホップスコッチ》などというふざけたタイトルののんきな曲でさえスコフィールドが硬質のギター・サウンドをぶつけるや背筋をしゃんとさせていたのもこの時代。さらに加えてマイルスの頭部が厳しさを増したのもこのスコフィールド時代であり、これはスコフィールドの頭部に端を発するマイルスへの連鎖反応とみてまちがいないだろう。これを「ジャズ頭部史」といい、マイルスの視点に立てば、やっている音楽はエレクトリックながら頭部はアコースティックというアンビバレンツな様相を呈していた「ケイオス」ならぬ「ケイウス(毛薄)」の時代とも呼ばれる(ほんとうにそうなのだな)。

 スコフィールドによればアル・フォスターが気に入っていた曲でもあり、「スモークドでグルーヴィー」しかもアルバム・ヴァージョンにおけるマイルスの演奏は「超サイコー」と評していたという。また口数の少ないロバート・アーヴィングは珍しく饒舌になり、「あの曲は演奏するのが楽しい。オレのフェイヴァリット・チューンなんだ」と語っている。そのような曲の最初期の姿、とくとご覧いただきたい。

【収録曲一覧】
1 Speak / That's What Happened
2 Star People
3 What It Is
4 It Gets Better
5 Hopscotch
6 That's Right
7 Code M.D.
8 Jean Pierre
9 You're Under Arrest
10 Hopscotch
(2 cd)
Miles Davis (tp, synth) Bill Evans (ss, ts, fl, key) John Scofield (elg) Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)

1983/10/25 (Spain)

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