「運がよかったですね」
TPPに反対する民進党の篠原孝衆院議員は、11月9日に米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利したことが伝えられると、同僚議員からこう言われたという。
TPP反対派にとって、たしかに今回の米大統領選の結果は“神風”だった。トランプ氏はTPPについて「大統領の就任初日に離脱する」と公言していて、TPP発効までの道のりは、確実に遠のいたからだ。だが、篠原氏は「運がよかったなど、とんでもない」と話す。
「自民党議員にもTPP反対派はいるのに、官邸の意向で国会が動いている。安倍首相は『早く批准しなければ再協議を迫られる』と言うが、実際は日本だけが今でも前のめりなのです」
10日には、衆院本会議で与党などの賛成多数でTPPの承認案と関連法案を可決。TPP参加国の中でも日本が突出して発効までの手続きを進めている。農林水産省の関係者はこう話す。
「今後、日本は米国にさらに譲歩して、トランプ氏がTPPを“ご破算”にしないよう、つなぎとめるつもりです。たとえば、日本はBSE(牛海綿状脳症)対策で米国産の輸入牛肉を月齢30カ月未満に制限していますが、米国の要求に応じて制限を撤廃しようとしている。新大統領への“手土産”にするためですよ」
トランプ氏の「TPP反対」の言葉を額面どおりに受け止めるのも、早計だ。東京大学の鈴木宣弘教授(農業経済学)は言う。
「トランプ氏はTPPには批判的ですが、『2国間FTA(自由貿易協定)でいい』と言っています。仮にTPPがなくなっても、米国はそれに代わるものとして『日米FTA』を求めてくる可能性が高い」
TPP交渉では、コメや牛肉・豚肉など「聖域」と呼ばれていた重要5品目でも、最終的には譲歩した。それが日米FTAとなると、どうなるのか。
「日米FTA交渉では、TPPで譲ったところが基本線となる。日本はさらなる譲歩を迫られることになるでしょう」(鈴木氏)
日本は、早くもトランプ氏の術中にはまっている。
※週刊朝日 2016年11月25日号