「加齢とともに勃起力が低下するのは自然なこと。40~50代はEDになると、自ら泌尿器科を訪れます。60代以上だと、妻から“もういいでしょ”と卒業を促されることがあります。最近は若い妻と再婚し、“これではまずい”と慌てて駆け込む人もいます」
治療薬は、バイアグラ、レビトラ、シアリスなど。セックスの1時間ほど前に飲み、効果は約8割ほどという。薬が効かなければ、移植手術や海綿体注射などの方法もある。
「是が非でも治療が必要とは思いませんが、EDの陰に隠れた病気があることにも注意してほしい。心筋梗塞、糖尿病、うつなどでEDとなるケースがあります」
クリニックには「性交中に妻が痛がる」と夫が相談に来るケースもある。中高年女性に多い悩みだろう。
日本性科学会理事長で産婦人科医の大川玲子さんはこう話す。
「性交痛は50~60代に多い。閉経に伴い、腟・外陰部が萎縮したり、性的興奮反応である腟潤滑液が分泌されなかったりすることが原因です。また、“濡れる”には、心を開き、セックスを楽しいと感じることが必要です」
愛情に満ちあふれ、質の高い性生活を送る夫婦は、70代でも痛みが少ない例があるという。愛撫なしの乱暴な挿入では、若い女性でも潤わない。
では、痛みがあるときにはどう対応すればよいか。
「例えば、潤滑ゼリーを腟の入り口に塗り、滑りをよくする。ゼリーが多めのコンドームなら、滑りがよいうえ、性感染も防げる。当学会の調査では、ゼリーを使う人は10年前の7%から31%に増えた。さらに積極的な方法には、ホルモン補充療法もあります」(大川さん)
腟粘膜の萎縮を改善し、全身作用が少ないエストリオール製剤(腟座薬など)が有効という。ただ、女性ホルモンに感受性のあるがんには禁忌。乳がんや子宮体がんを患った人は、婦人科医に相談が必要だ。
大川さんは「挿入しなくても、腕を組んだり、ハグしたりすることも、すてきな性的触れ合い。性行為に対する意識を変えていくことこそ、大切なのかもしれません」とも語る。
前出の荒木さんはこう指摘する。
「性のことは気になっても口に出せず、タブー視されがち。でも、高齢者施設に行くと、入居者の性に関する相談が出ます。“生きるエネルギー”となる、永遠のテーマなのです」
匿名読者からのお手紙では、性は人間の根源の欲求で、それを満たしつつ豊かな人生を送りたいとして、こう締めくくっていた。
〈欲求を満たしながら死ねたら本望と思いますが、その姿を笑われない様になるのはまだまだ先の事でしょう〉
家庭で社会で、もっとオープンに真剣に、熟年の性のことが語られてもよいのではないだろうか。
※週刊朝日 2016年11月11日号より抜粋