ロンドン・マスター1989
ロンドン・マスター1989
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マスターを超えたマスターに身悶え必至のパッチのマイルス盤
London Master 1989 (Cool Jazz)

 おお、これは圧倒的にすばらしい。アルバム・タイトルに偽りはまったくなし、いやそれどころか「マスター」という表現すら謙遜に思えるほどの高音質。これほどのレヴェルでマイルスの音がストレートに捉えられたことは皆無とはいわないまでもきわめて珍しいことといっていいだろう。オフィシャル以上という表現も大仰でなく、完全にトゥルー・ステレオしかも最高のバランス、おまけに聴きやすい1枚ものとくれば、これはもうマニアも初心者も万全の態勢で臨むしかないだろう。

 1989年7月11日、ロンドンはロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライヴ。もちろんこの前後のライヴはすでに出ている、したがって鮮度には欠けるかもしれないが、なーにそれも実際に聴くまでのこと。この驚異の音質とバランスを聴けば即座にノックアウトされること必至のパッチの強力音源なのです。

 最初はステージ上でエレクトリック・ベースあるいはリード・ベースを爪弾く音が聞こえる。客席まで距離があるようだ。ということはステージ上でのレコーディングというかサウンドボード録音なのだろうか。いやそうではない、これはガチンコで行なわれたライヴ・レコーディングだと思うのだ。何度も同じようなことをいうようで恐縮だが、そのくらい激しくイイ音なのである。

 1曲目は《イントルーダー》。通常は《イン・ア・サイレント・ウェイ》を受けてのメドレー状態で突入するが、いきなりの登場もまったく問題なく、これも高音質の効果だろう、キリリと引き締まった印象を与える。次にやってくる《スター・ピープル》がすばらしい。なにがすばらしいってリック・マーギッツァのテナー・サックスがむせび泣き、その光沢のある音はこれがマーギッツァのベストではないかと思わせるほど。うーむ、やっぱりワタシはケニー・ギャレットよりマーギッツァ派かなあ。

《ハンニバル》は品格あるテーマが足音を忍ばせつつやってくるヒタヒタ感とスリルがたまらず、それにこのブツではパーカッションがきれいに鳴り響き、おおこれはそうとうにすごい状態に突入しているではないか。以下同文というのもなんですが、マーギッツァが吹き倒す《ヒューマン・ネイチャー》、マイルスが「泣かせますよって」といいながら究極のソロを吹き放つ《ミスター・パストリアス》と、もう最高というしかない。マニアはとかく完全版を求めがちだが、これもまた「完全」なのだと思う。

【収録曲一覧】
1 Intruder
2 Star People
3 Hannibal
4 Human Nature
5 Mr Pastorius
(1 cd)

Miles Davis (tp, key) Rick Margitza (ts) Foley (lead-b) Kei Akagi (synth) Adam Holzman (synth) Benny Rietveld (elb) Ricky Wellman (ds) Monyungo Jackson (per)

1989/7/11 (London)