介護離職後の再雇用のしくみを設ける企業はまだ一部。介護経験者はこうした問題にどう向き合うのか (※写真はイメージ)
介護離職後の再雇用のしくみを設ける企業はまだ一部。介護経験者はこうした問題にどう向き合うのか (※写真はイメージ)
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 離職した従業員が、介護を終えて再び元の勤め先に戻れる。そんな支援制度が、近年広がっている。

 奨学金貸与事業などを担う日本学生支援機構は、介護を理由にやめた職員の再雇用制度を4月に始めた。介護を終えて職場に戻りたい場合、3年以内だと退職時相当の給与で復帰できる。

「ハッピーターン」などの菓子メーカーの亀田製菓は、介護や育児などでやめる従業員が復帰希望を登録できる「ハッピーリターン制度」を昨年11月に始めた。大日本印刷の「re‐work制度」は、介護や育児で退職した勤続3年以上の社員を再雇用するしくみだ。介護理由での利用者の中には、20代後半と30代前半の社員もいた。人事担当者は「介護は中高年の課題と思われがちですが、若い世代も突然関わるもの。先の話と思う若手も含め、社員への周知が課題」という。

「2~3日で勘を取り戻せた」「マニュアルの整備で以前より働きやすい」

 こんな体験談が並ぶのは、外食チェーンのすかいらーくのサイト。離職したパートらの再雇用を広げようと、職場に復帰した人らの生の声を今年3月から伝えている。

 再雇用のしくみを設ける企業はまだ一部。離職者の多くは、新たな生活の糧をどう得るかに悩む。

 明治安田生活福祉研究所とダイヤ高齢社会研究財団が2014年に発表した調査「仕事と介護の両立と介護離職」を見ると、厳しい実態がわかる。

 介護のために転職した正社員が新職場でも正社員として働けたのは、男性が3人に1人、女性が5人に1人。転職前後の年収を比べると、男性は557万円から342万円に4割減り、女性は350万円から175万円へと半減していた。

 退職の決断、再就職の苦労、新たな働き方探し……。介護経験者はこうした問題にどう向き合うのか。

 電気工事業の向洋電機土木(横浜市)の横澤昌典広報部長(44)は、介護離職を経て9年ほど前に同社へ転職し、正社員として働き始めた。きっかけは、当時の社長の一言だった。

「うちには今、介護で困っている社員がいない。君が働きやすい職場になれば、いい会社になれる。会社の将来につながる」

 自らが味わった苦労を、ほかの人には経験させたくない。そんな思いから、新たな職場では介護や育児に関するさまざまな「使える」制度づくりを進めてきた。

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