作家でコラムニストの亀和田武氏は、週刊朝日で連載中の『マガジンの虎』で、雑誌「時空旅人」を取り上げた。
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がっくり。あまりに時代錯誤でチープな表紙画をコンビニで見つけ衝動買いした「時空旅人」(三栄書房)11月号を開いて思わず脱力した。
中身スカスカ。“世界と日本の不思議114/ザ・ミステリー”特集だが、怪奇&オカルトの感覚が半世紀遅れだ。
UFO、UMAに始まり、世界の怪奇、ニッポン不思議伝説の4章で構成された「時空旅人」だが、紹介された怪異は知られたものばかり。
コンビニに並ぶ都市伝説や怪奇、ヤクザのワン・コイン本よりも中身は薄く、衝撃度も劣る。定価は780円。表紙買いした私が悪い。
ヒバゴンをUMA編で6ページも取り上げている。70年に当時の広島県比婆郡で目撃された獣人だ。一時はマスコミが殺到し、地元の役場では職員を類人猿係に任命までした。
中国山地の奥にある集落は一瞬スポットを浴びたが、獣人の目撃も絶え、静寂が戻った。往時を懐かしんでか、地元バスの車体にはかわいいヒバゴンの絵が描かれている。
屈斜路湖のクッシー。池田湖のイッシー。そしてツチノコ。あの時代、多くの過疎地にUMAは出現した。いまならゆるキャラか。人口減に歯止めがかからず、観光客誘致に賭けるしかない土地では、住民は無意識に、“未確認動物”を待望した。
近年は代理店とネットを駆使し、ゆるキャラを作りあげた。ゆるキャラに頼る時代。どうなんだろう。「時空旅人」は怪奇専門誌ではない。最近の特集は甲子園、織田信長、田中角栄。巻末近くには1万円の白蛇金蛇ブレスレットなど何点もの通販グッズが紹介されている。地方の現状と、出版界が重なってみえた。
※週刊朝日 2016年10月28日号