小池:あれは延期させないための数字です。電気も水も使わないし、人がいないところにたくさんの警備は必要ない。そんなにかかりませんよ。それに冷静に考えれば、毎日のランニングコストよりも、当初990億円だった建設費が2752億円になったことのほうが圧倒的に大きい。

林:築地はあれだけ観光客が来てるし、老朽化してるといってもそんなに不便でもないわけですよね。

小池:ただ、1930年代につくられた施設ですからね。林さんの子どものころって、冷蔵庫は上に氷を置くタイプでした?

林:いえ、電気冷蔵庫でした。

小池:私が小さいころは、上に氷を置く木の冷蔵庫でしたよ。それが昭和30年代で、築地市場がつくられたのはさらにその20年前ですからね。近年は衛生基準が非常に厳しくなってますし、豊洲に移転すればとても近代的になる。ただ、面積は築地の1.5倍以上あるのに、作業場はかえって狭くなるんですね。

林:業者の人が「狭くてマグロが切れない」って言ってますよね。

小池:莫大なお金をかけながら、「使い勝手が悪い」とか言われてる。ふつうのビジネスの感覚では、考えられません。

林:でも、移転をやめたら反発が起きますよね。「うまくいきかけてたのに、フザケるな」みたいな。

小池:安全性が確認されたら、使えますから。ようやくまとまったのをちゃぶ台返しした小池であるわけですが、この問題ってもう30年もやっていて、その間に世の中変わってるんですね。私は電電公社の民営化にかかわったことがありますが、世界の通信ビジネスがどんどん変わっていくなかで、日本は国内の民営化の話を何十年も延々とやってたわけ。決着がついたときには世の中が変わっている。ガラパゴスの始まりです。あちこちでそういう状態に陥っているから、東京はムチャクチャやりがいがあります。手つかずの荒野が広がっていますから。

(構成/編集部・野村美絵)

週刊朝日 2016年9月30日号より抜粋

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