ザ・ポピュラー・デューク・エリントン
ザ・ポピュラー・デューク・エリントン
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 ある友人が、ビンテージのブッシャー製アルトサックスを入手した。ブッシャーといったら、デューク・エリントン楽団のブラス・セクションはブッシャーで揃えていて、とりわけ花形プレイヤー、ジョニー・ホッジスのあの輝くような甘いトーンは、ブッシャーならではのものだ、とその友人は言う。(ブッシャーを合併吸収した)セルマー社の現行商品では、出したくてもあの音は出ないのだ、と。

 わたしも実際に吹いてるのを聴かせてもらったが、たしかに音色にヌメり感があって、いかにもオールドアメリカン的な心地よいサウンドだった。なるほど、エリントン楽団独特の「ごった煮」感は、メンバーの個性もさることながら、ブッシャーの楽器が一役買っていたと言えそうである。

 では、現行商品とビンテージ・サックスとでは、いったい何が違うのだろう。理由のひとつに、昔に比べ、金属の生成技術が進歩し、純度の高い金属で楽器が作られるようになったことが挙げられる。つまり、昔の楽器は、不純物が混じった金属でできており、どうもそれが良い音の秘密らしい。

 純度が高ければ、そのほうが良い音がしそうなものだが、よくよく考えてみたまえ。これはまるで精製された塩や砂糖は身体によくないが、天然のミネラル成分を含んだ塩や、黒砂糖を摂取するのは好ましいという話とソックリだ!

 オーディオ界でも、高純度の銅線や銀線が「高級ケーブル」として売られている一方で、古い電線が「ビンテージワイヤー」と称され、良い音がするといって高値で取引されているようだ。これだっていかにも不純物がいっぱい含まれてそう。

 たしかに「高純度・高級ケーブル」も、ツルツル・ピカピカの高級ジャズを聴く人にはいいかもしれないが、こちとらエリントン楽団である。「不純」なほうがいいに決まってるではないか。

 以上の理由から、もちろんわたしは「ビンテージ・ワイヤー」を使ってる!と、言いたいところだが、そうではない。必要以上にプレミア価格が上乗せされた電線など、誰が買ってやるもんかい。というわけで、スピーカー・ケーブルには、ホームセンターで売ってるビニール平行線を使用。10メートルで500円位の、どこにでもあるネズミ色の縒り線だ。

 それなりの値段のケーブルも試してみたが、高級なのはどれもキリキリと窮屈な音がして、繋いだとたんホッとするビニール平行線に勝るものはなかった。これも銅の線材から被膜から、そうとうに不純物が含まれているんじゃないかと想像する。

 結果的に、当店の再生システムからは、高純度やら金メッキやらの高級オーディオアクセサリーはすべて駆逐され、ピンコードも、電源コンセントも、すべて安物の「不純」なものに落ち着いた。うまいぐあいに肩の力が抜けるのである。これで『ザ・ポピュラー・デューク・エリントン』なんか聴いたら、もう最高だ。

 それでも、当店に来るごく一般的なオーディオ愛好家の人は、床をひょろひょろと這い回るビニール平行線を見て、なんだか気の毒そうな視線をわたしに向けるのだが、気のせいだろうか。

【収録曲一覧】
1. A列車で行こう
2. アイ・ガット・イット・バッド
3. パーディド
4. ムード・インディゴ
5. 黒と茶の幻想
6. ザ・トゥイッチ
7. ソリチュード
8. 私が言うまで何もしないで
9. ザ・ムーチ
10. ソフィスティケイテッド・レディ
11. クリオール・ラヴ・コール