マイルスが吹くフレーズに含まれる意味を考えよう
Perfect Way (Sapodisk)
ドカンと『パーフェクト・ウェイ』とは、なんと威風堂々としたタイトルであることか。サポディスクさん、かなりの自信作とみた。ジャケットに使われている写真も珍しいというか、ちょっと変わっている。かつてこれほど大きくアダム・ホルツマンの背中を前面に押し出したジャケットがあっただろうか。しかもその左前方にはケニー・ギャレットのサックスを吹くうしろ姿、さらにその向こうにフォーリーとマイルスが向かい合って吹いたり弾いたりというこの複雑な構図、とても変わっていると思いませんか。
内容は1987年11月16日、イタリアはローマでのライヴ。マイルスのライヴ盤といえば2枚組が当たり前、なかには恐怖の3枚組というのもあるが、さすがはサポさん、デフレの世相を反映しての1枚もので勝負ときた。約50分の収録、しかしながら収録曲はノーカットというから良心的。初心者はこのくらいのブツから入っていくのが正解かもしれません。おまけにマスターテープあるいは超鮮明なサウンドボード録音とあっては、「とにかく聴こうではないか」としかいいようがない。じつにリアルな音像で、マイルスがすぐそこで吹いている感じ。
1曲目は、アルバムのタイトルにもなっている《パーフェクト・ウェイ》。はっきりいって幼稚な曲ではあるが、マイルスが吹くと「よし聴こう」という気になるから不思議。つまりはこれが「マイルスが吹くメロディーに含まれる意味」ということなのだろう。ようするにマイルスが吹けば、どのような稚拙かつチャチなメロディーでも物語を語りはじめるという世界で8番目の不思議が現出する。いいかえれば、マイルスのソロイストとしての深さ、すごさを知るには、むしろIQの低い曲のほうがわかりやすいという好個の例が、この《パーフェクト・ウェイ》という曲の持ち味なのだろう。
さらに「マイルスが吹くメロディーに含まれる意味」という点では、ラストに登場する《Tutu》の9分過ぎに出てくる、「ちょっと吹いてみました感」が濃厚のさりげないフレーズがすばらしい。「ピピピ」もしくは「プハヒ」のわずか数音で景色を激変させ、バンドを新しい方向に引きずっていく。これが帝王の魔力というものだろう。その意味では、ソロのリレーで展開していく《リンクル》がいつ聴いてもおもしろい。マイルスのソロに対してケニー・ギャレットやフォーリーがソロで応じていくが、吹くフレーズのレヴェルがちがいすぎることによって生まれる創造的落差のなんと残酷なこと、爽快なこと。ともあれ、いろいろなことがわかるライヴではある。
【収録曲一覧】
1 Perfect Way
2 The Senate/Me And You
3 Human nature
4 Wrinkle
5 Tutu
(1 cd)
Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Foley (lead-b) Darryl Jones (elb) Ricky Wellman (ds) Rudy Bird (per)
1987/11/16 (Italy)