認知症の場合は当事者ではなく周囲(家族やヘルパー、近所の人など)が「おかしい」と気づくことでトラブルが顕在化するが、消費者庁の調べでは、2006年度の7058件(認知症等の当事者と他の相談者を合計した数)が、13年度には1万795件と7年で3737人も増えた。14年度では9708件、15年度は8826件と少し減ったのだが、消費者庁調査部に聞くと理由があった。
「13年度はとくに健康食品の送り付け商法(勝手に商品を送り付けて代金を請求する)が大流行しました。当庁でも業者を処分して注意喚起し、送り付け商法は収束しましたが、認知症問題は潜在化しやすく、数字が表に出にくい」
15年度の認知症等の高齢者に関する相談の販売購入形態は、「訪問販売」の割合が39.7%と大きく、「電話勧誘販売」18.9%、「店舗購入」13.0%等が続く。また高齢者が多く購入する商品には、時代を反映するものも多い。11年度に5位だったアダルト情報サイトの相談(未閲覧の高額請求)は15年度に2位になっている。国民生活センターの広報担当は言う。
「デジタル端末のトラブルが高齢者の方にも広がっています。でも一方で、高額な布団を売りつけるような古典的な訪問販売も続いています」
国民生活センターに直接寄せられた相談の中には、一人暮らしの認知症の父親(70代)が3年間に布団などを350万円分も買い、「公共料金を払えなくなった」という例もある。
11年度に1位だったファンド型投資を巡るこんなトラブルもあった。
介護・福祉系法律事務所おかげさまの外岡潤弁護士は、13年に「800万円もやられた」という認知症の男性(元自営業の80代)の妻からの相談を受けた。
「カンボジアやタイ、ベトナムのGDPがワールドカップ開催年に上昇するので、貯水ダム事業等に投資しないかと電話で持ちかけられ、その後同じようなパンフレットが送られてきた。言葉巧みに投資熱をあおり、同封した振込用紙で振り込ませたんです。その後振り込みがあり、食い付いたと判断したら、すかさず別の詐欺メンバーが『その債権をぜひ売ってくれ』と電話で持ちかけ、購買欲を焚きつける。複数の人が役割を演じる劇場型詐欺でした」
転換社債という名目で初めに100万、追加で200万……と出し、総額は800万円にのぼった。
無料相談ができる法テラス(日本司法支援センター)を通し、外岡弁護士が相談に応じた。騙された男性宅を訪問し、相手会社宛てに電話をかけたが、時すでに遅しだったという。
「パンフに記載された住所はレンタル事務所で、電話も応答がありませんでした。民事裁判をやっても相手方が出頭しないので、勝つことは簡単ですが(支払えと命じた金額は)紙切れ同然。会社の土地や預貯金が不明である以上、強制執行で押さえられないので、お金は取り返せず、結局は泣き寝入りでした」(本誌・藤村かおり、西岡千史)
※週刊朝日 2016年9月9日号より抜粋