認知症患者が500万人を突破したとされる日本。超高齢化社会に突入し、判断能力の衰えた老人を喰い物にする輩が増えている。
「ちょっとどうしたの、この浄水器」
埼玉県在住の佐藤りえ子さん(仮名・55)は、都内で一人暮らしをする父(87)の家を久しぶりに訪れて愕然とした。高級そうな浄水機能付き整水機器がキッチンに設置されていたからだ。
「お父さん、これいくらだった?」
「いくらだったかな……」
財布などをしまっている居間の引き出しをりえ子さんが開けてみると、25万円の領収書が見つかった。この前も15万円の換気扇を買ったばかり。居間やキッチンのLED照明のほか防犯灯も購入。すべて近所の同じ電器店で購入したものだ。
りえ子さんの父が認知症の診断を受けたのは2年前。週2回ヘルパーが訪れて、りえ子さんは姉と交代で様子を見に来ている。
「母が昨年末に亡くなったのですが、そこからの半年で父の認知症も買い物も進みました。昔から知っている電器店が、頻繁に家に出入りするようになって」
電球が切れたと父親が店に電話をすると、すぐに担当者が家まで来てつけ替えてくれる。だが来るたびに、頼んでもいない高額商品を薦められたというのだ。
元研究者の父親はプライドが高く、りえ子さんが注意すると「つきあいだからいい」とつっぱねた。りえ子さんは電器店の担当者を呼び出し、「判断がよくできない高齢者に物を売らないでほしい」と申し立て、家電攻勢は収まった。だが間髪いれずに次の問題が起きた。今度は父親が車を買ってしまったのだ。
「父は免許を持っていて、たまに車に乗っていた。危ないので免許を返納させようとした矢先、自宅の門柱にぶつけたんです。父から『車の修理代に128万円かかった』とメールが来ましたが、修理に出した日に新車を買ったことがわかったんです」
「修理代より買ったほうが得だ」と、担当者に言いくるめられたようだ。車は契約が成立し、クーリングオフは無効だった。りえ子さんはディーラーに納車をしないように頼み、新古車として80万円で売り、父を説得して自動車免許の試験場に連れていき、免許を返納した。りえ子さんの父のようなケースは珍しいことではない。