生長の家本部(山梨県北杜市) (c)朝日新聞社
生長の家本部(山梨県北杜市) (c)朝日新聞社
この記事の写真をすべて見る

 著述家の菅野完(すがの・たもつ)氏は、著書『日本会議の研究』の中で、安倍政権との親密な関係があることで注目される組織「日本会議」の活動を実質的に牛耳るのは、椛島有三事務総長など、宗教法人「生長の家」の元信者を中心とした人々であると指摘した。だが、これを田久保忠衛会長は「月刊Hanada」8月号で、真っ向から否定している。

 元信者が日本会議の活動にかかわっているとされる宗教法人生長の家は6月9日、「与党とその候補者を支持しない」との声明を発表。日本会議を「時代錯誤的」と批判した。突然の“参戦”はなぜだったのか。本誌の取材に、生長の家は次のように回答した。
 
 安倍政権は今回の参院選で勝利すると長期政権になる可能性があり、そうなった場合、衆参両院での強引な政治運営によって日本の民主主義が破壊される恐れがあります。だから今回の選挙に限り、安倍政治とそれを支える与党に対して「反対」の意思を明確にすべきと考えたのです。
 
 また、『日本会議の研究』が出版され、安倍政権を支える「日本会議」の中核が生長の家の元信者であることが明らかになったことで、現在の教団も「日本会議」を支え、日本の右傾化を進めているとの誤解が生じる可能性が出ています。事情を知らない一般国民は、「生長の家は過去を美化し民主政治を否定する狂信的宗教である」との誤解を抱く可能性があるのです。
 
 元信者と当教団とのかかわりは、生長の家政治連合が活動していた昭和58年頃までです。それ以降のかかわりはありません。
 
 元信者らの考え方の根底にある信条は、谷口雅春・生長の家創始者が冷戦下に強調した愛国論を頑なにつかんでいるという意味で、「原理主義」と言えます。原理主義の特徴は、聖典の無謬性と文字通りの解釈を主張する点にあります。
 
 彼らは、「宗教は時代の制約下にある」という事実を無視して、時代状況が大きく異なる現在でも、谷口雅春・創始者の冷戦下の一部の教えを行動指針にしています。そこが根本的な誤りなのです。
 
 東西対立の危機的状況で説かれた教えは、東側が崩壊した現在、そのまま説かれても場違いな面があります。例えば、現代において「共産革命が目前に迫っているから憲法復元という非常手段に訴えよ」と説くことは、現実無視の妄言です。

『日本会議の研究』では、現政権に強い影響力を及ぼしている日本会議を実質的に運営する日本青年協議会、日本政策研究センター、谷口雅春先生を学ぶ会がすべて生長の家の元信者によってつくられていることが明らかにされています。これらの組織の原点は、1960~70年代の生学連(生長の家学生会全国総連合)の運動にあり、そこで活動した人物が現在、前掲の3団体のリーダーとなり、連携して運動を進めています。これらの団体は、谷口雅春・創始者が冷戦時代に説かれ、歴史的役割を終えた主張──大東亜戦争肯定論、大日本帝国憲法復元改正論、家制度の復活等──に固執し、民主主義の基本である立憲主義を軽視して、国民の権利を国家の下に置く憲法改正をねらっています。これらは、現在の生長の家の信念や運動とは相容れないものです。
 
 宗教には、時代や文化的背景が異なっても変えてはならない「中心的な教え」と、時代状況に対応し変化させなくてはならない「周縁的な教え」があります。帝国憲法の復元改正などは後者に属するものです。

週刊朝日  2016年7月15日号