ライヴ・イン・東京(紙ジャケット仕様)
ライヴ・イン・東京(紙ジャケット仕様)
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Weather Report Live In Tokyo (Sony [CBS/Sony])

 1972年に来日したジャズ・ミュージシャンは16人/グループと、前年の2割減だった。もっとも前年の20人/グループに数えたB.B.キング(ギター、ヴォーカル)、ルー・ロウルズ(ヴォーカル)、マヘリア・ジャクソン(同)、トニー・ベネット(同)をジャズ・ミュージシャンではないとして外せば同数になるのだが。滞日中のゲイリー・ピーコック(ベース)を除く10人/グループが13作を残した。ライヴ作に「ウェザー・リポート」、オスカー・ピーターソン(ピアノ)、マル・ウォルドロン(同)の3作がある。ちなみにスタジオ録音の10作中、ギル・エヴァンス(編曲/指揮、ピアノ)の2作、マルの1作、ジョニー・ハートマン(ヴォーカル)の2作は日本人ミュージシャンと共演したコラボ作(リーダー作/コ・リーダー作)だ。ライヴ録音の3作中、オスカー作は入手難で高価、マル作はCD化されていないので、1972年は「ウェザー・リポート」作のみをとりあげる。

 1月4日、話題のニュー・グループ「ウェザー・リポート」が初来日する。ウェイン・ショーター(テナーサックス、ソプラノサックス)、ジョー・ザヴィヌル(ピアノ、エレクトリック・ピアノ)、ミロスラフ・ヴィトウス(ベース、エレクトリック・ベース)、エリック・グラヴァット(ドラムス)、ドン・ウン・ロマン(パーカッション他)という面々で、ショーターはジャズ・メッセンジャーズ時代の1961年と1963年、第3回ドラム合戦の1966年に続く4度目の、ザヴィヌルはキャノンボール・アダレイ・グループ時代の1963年と1966年に続く3度目の来日だった。ジャズの方向を占う先端グループの来日は1966年のジョン・コルトレーン・グループ以来だったと言っても大げさではないだろう。チック・コリア(ピアノ)の『リターン・トゥ・フォーエヴァー』(ECM/1972年2月)は録音されてもいなかった。推薦盤は1月13日の最終公演の模様を完全収録した2枚組だ。

 プログラムは、第1部は4曲構成のメドレーが2組、第2部は単独の1曲と2曲構成のメドレー2組というもの。合わせて13曲、うち5曲がデビュー作『ウェザー・リポート』(コロンビア/1971年2~3月)の収録曲で、8曲はショーター、ザヴィヌルらの新旧の自作に二分される。当初は日本でのみ発売され、のちに5曲が第2作『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』(同/スタジオ録音:1971年11月)の裏面として発表された。この時点で我が聴衆はデビュー作の「ウェザー・リポート」しか聴いていなかったのだ。精緻なサウンドがライヴでどう再現されるのか、聴衆の期待のほどは察するに難くない。期待はいい意味で外れる。初期「ウェザー・リポート」の狙いは音響効果風のサウンドと対話型/集団型即興の融和にあったが、エフェクターや多重録音を駆使した前者が当時のライヴで実現できるはずもなかろう、眼前で繰り広げられたのは直球勝負の後者だった。

 作り物の極致のようなデビュー作のサウンドに驚いた聴衆は、ライヴ・バンドとしての力量を見せつけたワイルドな即興の饗宴にまたも驚いたにちがいない。メドレー単位では最初と最後が、曲単位では《ドクター・オノリス・コウサ》《ディレクションズ》《オレンジ・レディ》《ティアーズ》《アンブレラ》が躍動感と緊張感の漲る力演だ。これらはウェザー・クラシックスになるべくしてなったのだなあという感がする。確かに、冗長に思える場面はあるし、グループとしてのサウンドが未確立でトータルでの訴求力も弱いと思うが、この時点では高望みだろう。時間的制約のなさだけが名演を生む条件ではない。これに先立つウィーンほかでのライヴ(いずれもブート)でもプログラムもアプローチも同様だが出来は及ばないと思う。この日の彼らは寛ぎと緊張のバランスがとれ、明らかに“のって”いる。そう導いたのは真摯かつ熱心な我が聴衆だった。終演後、ザヴィヌルは「宙を舞うような歓喜を感じて演奏できたのは、はじめてなんだよ。~今日という日まで、聴衆がウェザー・リポートの音楽をどの程度まで理解してくれるだろうか―という念から解き放たれたことがなかったんだ。それが今日、みごとにふっ飛んでしまったのさ。日本のジャズ・ファンにわれわれは感謝しなければならない」と語った。大いに誇っていい。

【収録曲一覧】
[Disc 1]
1. Medley: Vertical Invader - Seventh Arrow - T.H. - Doctor Honoris Causa
2. Medley: Surucucu - Lost - Early Minor - Direction
[Disc 2]
1. Orange Lady
2. Medley: Eurydice - The Moors
3. Medley: Tears - Umbrellas

Wayne Shorter (ts), Joe Zawinul (p, el-p), Miroslav Vitous (b, el-b), Eric Gravatt (ds), Don Um Romao (per, etc.)

Recorded At Shibuya Philharmonic Hall, Tokyo, January 13, 1972

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