「愛がピカソに絵を描かせた、と言ってもいいでしょう。新しい女性が現れたとき、より多くの創作を行っていますし、よりエネルギーに満ちた作品が生まれています」
ル・ボン氏はそう認めながらも、伝記的な見方から作品を楽しむだけではもったいないと指摘する。
「本作に描かれた2人が誰なのか、知る者はいません。最愛のマリーと、妻オルガだと考える人もいる。でも私にとっては、現実の世界にはいない抽象の“女神”なのです」
どのような読み解き方も可能なのが、ピカソの面白さだと言う。
「右の女性は絵を描いているようにも見えるし、左に置かれた鏡は絵でもある。絵とは何か、という暗喩(メタファー)ではないかと思っています。花などのディテールや、鮮やかな色彩もすばらしい。ピカソは線で描き、マティスは色で描いたと言われていますが、この絵を見ると、ピカソも非常にすぐれた色彩感覚を持っていることがわかります」
自分ならではの視点で、ピカソの“女神”を堪能したい。
※週刊朝日 2016年7月1日号