2000年に「エリザベート」でデビューして以来、ミュージカル界のプリンスと呼ばれる井上芳雄さん。作家・林真理子さんとの対談で蜷川幸雄さんとの思い出を語った。
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林:蜷川幸雄さん(5月12日死去)のお芝居にもお出になってましたよね。
井上:藤原竜也君が最初に「ハムレット」(03年)をやったときに、オフィーリアのお兄さんのレアティーズという役で出たんです。まったくできなくて、ひとこと言うたびに蜷川さんに「違う!」って止められて。
林:それはつらいですね。
井上:灰皿こそ飛んでこなかったけど、「そんないい声でしゃべるんじゃねえよ。ミュージカル馬鹿」って言われました。
林:えっ、そんなひどいことを?
井上:他の人にも、「おまえ、なんで生まれてきたんだ」とか、すごいんですよ。もう生きた心地がしないというか。だから稽古場に行くのがいやになっちゃって。これまででいちばんつらい稽古でしたね。何がダメなのかもわからないんだけど、自分で考えてやってみて、とにかく初日を迎えて、何とかやり通しました。
林:蜷川さんのお通夜か告別式、いらっしゃいました?
井上:お通夜に行きました。
林:藤原竜也さんが弔辞で、「ほぼ憎しみでしかないですけど」っておっしゃってましたね。もちろん反語だと思いますけど。