「せっかくアイデアを企画書にまとめても、担当者のところでストップしたままで待てど暮らせど反応がない。実際は会議すら参加させてもらえなかった。“出る杭は打たれる”的な空気でした」
なぜ、こんな例が続出するのか。元島根県議会議員で、在職中から協力隊制度の問題点について提起している三島治さんは、「ビジョンを持たない自治体側が、“臨時のお手伝いさん”感覚で協力隊を受け入れる例が多すぎる」と指摘する。
「費用は国が負担してくれるし、人手が足りないから、とりあえず隊員で賄おうとする地域が目立つ。本来、地域内でやるべきことを、よそから来た若者に押し付けている。任期が終わればポイと、使い捨てです」
管轄の総務省は、こうした実態をどこまで捉えているのか。聞くと、隊員の意識の低さや自治体の受け入れ体制の未熟ぶりは、「ちらほら耳に入ってきています」という。では、改善策をどう考えているのか。
「まずは自治体の受け入れ体制強化を図るべく、昨年から職員を対象に、地域ブロックごとの研修会を開始しました。成功例をもとに、識者らの意見を交えつつ学ぶ場を設けています。これに加え、隊員の相談を受け付けるサポートデスクも設置に向け準備を進めています。これで全て解決というわけにはいきませんが、地道に現場の声を拾いながら、少しずつ改善の方向に持っていければ」(総務省地域自立応援課)
もちろん、協力隊は悪い例ばかりではない。実際に、協力隊の活動が地域の発展につながり、新たな動きが生まれている例もある。
人口165人の「限界集落」、岡山県美作市の上山地区もそうした地域の一つだ。数年前までは荒れ放題だった棚田を地域資源として甦らせる活動が、元協力隊員らの手によって着々と進められている。みるみるうちに美しい風景を取り戻す上山地区の姿は口コミで広まり、多くの人が集うようになった。13年にはこれまでの活動が評価され、日本ユネスコ協会連盟のプロジェクト未来遺産にも登録された。
こうした活動の中心にいる元協力隊員・梅谷真慈(まさし)さん(29)は言う。
「協力隊制度は、あくまで地域を良くしたいという目的のための“手段”として活用させてもらった。地域に根ざす意識と思いが集まるなら、良い制度だと思います」
地域イノベーションについて研究する、飯盛義徳教授(慶応義塾大学)は、協力隊と自治体側のミスマッチを防ぐには「ビジョンの共有が欠かせない」と釘を刺す。
「地域をどうしていきたいのか、自治体側と協力隊側がとことん議論することが大切。“よそ者”を生かすには、対等に意見を言い合える場づくりが必要です。隊員も、主体的に動くことで初めて楽しいと思える。やる気を持ち続けてもらうためにも、お互いが歩み寄る姿勢を持つべきです」
各地で拡大が進む協力隊。現在の条件で政府が目標に掲げる4千人に到達すれば、年間でおよそ126億円という巨額の税金投入が見込まれる。今のままでは、ふたを開けたら“なんちゃって地域おこし”ばかりになりかねない。国も自治体も、制度の充実のために、対策を練る必要があるだろう。
※週刊朝日 2016年6月24日号より抜粋