「月報に記載する勤務時間や活動内容は自己申告制。さすがに週10時間とは言いづらいので、3倍ぐらいに“盛って”申告しています。罪悪感がないわけではないけれど、少なくとも僕の周りはみんな似たようなものです。協力隊の活動はそこそこに、副業をメインに稼いでいる人もたくさんいますし。はっきり言って、ちょろいです」

「地域おこし」という課題に取り組む協力隊員の発言とはにわかに信じがたい。もしかして、最初から地域おこしには……?

「ええ、正直興味ないですね。ここに定住する気もないですし。一時的な現実逃避みたいなものかなあ」

 ここで改めて協力隊について説明しよう。「地域おこし協力隊」とは、2009年に始まった総務省の事業。過疎化の進む地域に、都市部をはじめとする地域外の人材を協力隊として受け入れ、「地域協力活動」を行ってもらうという制度だ。隊員の任期は1年以上3年以下。地域の課題解決に寄与すること、そして任期を終えた後も、活動地域に定住・定着することが目標とされている。

 協力隊に支給される金額は、1人につき最大で年間400万円。うち、隊員に入る報酬が200万円程度(自治体により異なる)、残る200万円程度が活動費(経費等)という内訳だ。さらに、任期の最終年または翌年に活動地域で起業する場合には、1人あたり最大100万円が支給される。

 こうした協力隊制度にかかる費用は、災害などの緊急時に出される国の特別交付税により、取り組む自治体に拠出される。09年度から15年度までの7年間で、実に198億4千万円の税金が投入された。隊員の募集経費まで200万円を上限に国が担うため、自治体の実質的な財政負担はゼロ。協力隊だけでなく、自治体にとっても何かと“おいしい”制度なのだ。

 政府は14年、地方創生の総合戦略の一つとして、「20年までに協力隊の隊員数を4千人にまで拡大する」という方針を発表した。同年、安倍晋三首相が島根県を訪問し、同県で活動する協力隊5人と意見交換した際に、制度を絶賛。その後「隊員数を3倍に増やす」と宣言した。実際、13年度には978人だった隊員が、15年度は2625人と、その数は急速に拡大している。うち8割近くが20代、30代の若者だ。拡大に伴い、交付税から出される関連費用もうなぎ登りで、初年度が1億4千万円に対し、15年度は約84億円と、実に60倍に膨れ上がっている。

週刊朝日 2016年6月24日号より抜粋