「男性は施設から渡された性具を用いて毎日喜んで自慰をして、入居女性への問題行動はなくなったそうです」(小林さん)
性具となると驚くかもしれないが、浴風会病院の精神科医、須貝佑一さんは、「間違いでない」と話す。
「胃ろうなどの問題と同じです。施設の判断でなく家族(第三者)の同意がとれれば問題はないはずです」
さらに須貝さんは、家族も介護者も高齢者への意識を改めるべきだという。
「認知症になると、前頭葉の機能低下でそれまで抑制できていたことを『おおっぴら』にする(脱抑制)。さらに社会的認知の障害が起きて周囲を気にしなくなると、ダイレクトに事に及ぶ。廊下や風呂など公の場で自慰をしたり、俺の陰部を見ろと言ったり」
ところがこうした問題を防ぐのは「難しい」という。
「認知症は前の性格が強調されるといわれている一方、まったく違う性格になることもある。若いころから性行為を控えればいいかといえば、そうではないのです」(須貝さん)
須貝さんによれば、アメリカでは近年、認知症による性行動は周辺症状(性格や環境などに絡んで出る症状)ではなく中核症状(脳の異変で直接起こる行動)の一つとして認めるようになったという。
「性の問題で介護的配慮がとても難しい場合には、精神科の介入(投薬など)も重要になると思います」
※週刊朝日 2016年5月6-13日号より抜粋