まもなく92歳を迎えるシャンソンの巨人、シャルル・アズナヴールが、6月の「最後の日本ツアー2016」を前にパリでインタビューに応じた。出世作「希望に満ちて」は一晩で書き上げた。映画「ノッティングヒルの恋人」の主題歌「She(シー)」は三つある──そんな裏話を交え、80年超のキャリアを語った。
──シャンソン歌手としてスターの座をつかんだのは「希望に満ちて」のヒット。そこに描かれた売れない歌手は、若きアズナヴールの姿にも見えます。
違う。ブリュッセルのキャバレーで、(すでに名が知られていた)私がいると知りながら歌った歌手を見た。悲壮だった。ホテルに戻り、一晩で書き上げた。(苦しみ、もがくのは)どんな職業でも同じこと。政治家でもそうだし、記者だってそうだ。だからヒットしたのだろう。
──愛の歌、人生の哀歓をかなでる歌。名曲を生み出すのは、豊かな経験のなせるわざなのでしょうか。
自分のことを歌ったのは「自叙伝」だけ。見たこと、聞いたことでシャンソンをつくる。まずテーマがあり、そして言葉がある。
──あなたの歌はシンプルな言葉で綴られています。そして、聞き手の心をつかむ。
米国や英国では曲を重んじるけれど、シャンソンは詞だ。みなが思うほどシンプルじゃないよ。考えに考えて、辞書にも頼る。とりわけ同義語を調べる辞書。そうでないと、いい曲は書けない。いつも同じことを言うばっかりだから。豊かな言葉がテーマを豊かにする。愛していると歌うのではなく、愛について語ってきた。
──フランス語を特別に研究した専門家というわけではありません。