写真・図版(1枚目)| 『ジャック・ジョンソン~リアル・サウンドトラック・マスターズ:テオ・ミックス・エディション』
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これぞ正真正銘のオリジナル・サウンドトラック盤!
Jack Johnson-Real Soundtrack Master : Teo Mix Edition (So What)

 一般に『ジャック・ジョンソン』は、マイルスにとって、『死刑台のエレベーター』に次ぐ2作目のサウンドトラック盤として知られている。そして『死刑台のエレベーター』が「映画のために吹き込まれた音楽」であるのに対し、『ジャック・ジョンソン』が「たまたまそのへんに転がっていた演奏」を再構成してサウンドトラック盤としたものであることも、いまでは少しうるさいマイルス者ならご存知だろう。

 では、本当のサウンドトラックとはどのようなものだったのか。それを明らかにしたのが、このソー・ホワットからの新作である。マイルスが吹き込んでいた、しかしながら発売のあてのない演奏を、プロデューサー、テオ・マセロがいかに映画に合わせ、再構成した、エコーをかけまくったか。このCDを聴けば、サウンドトラック盤としての『ジャック・ジョンソン』の真実の姿が深い部分から理解できる。

 ここで少々おさらいを。そもそも『ジャック・ジョンソン』というアルバム・タイトルは、黒人として初のヘヴィー級チャンピオンになったボクサー、ジャック・ジョンソンのこと。くり返せば、いちおうサウンドトラック盤の顔をしているが、映画のために新たにレコーディングされたわけではなく、すでに録音済みの未発表演奏をテオ・マセロが映画の進行や画面に合うよう編集し、逆算式にサウンドトラック盤とした。したがって録音時期は2回にわたり、しかも互いの演奏に別の日の演奏が組み込まれるなど、かなり凝った作りとなっている。さらに『ビッチェズ・ブリュー』や『マイルス・アット・フィルモア』の音源も使用されていたこと、加えて新録音のドラム・ソロがあったこともわかる。ちなみにテオ・マセロのテープ編集に関しては賛否両論あるものの、この『ジャック・ジョンソン』は、テオ・マセロの存在を抜きにして語ることはできず、その意味では、編集者=テオ・マセロの最高傑作に挙げられるかもしれない。

 アルバムのテーマとなる《ライト・オフ》は、ジョン・マクラフリンを中心としたジャム・セッション風の演奏。この部分の録音は、1970年4月7日。マイルスとしては、新しく起用したスティーヴ・グロスマン(ソプラノ・サックス)、マイケル・ヘンダーソン(エレクトリック・ベース)のチェックを目的としていたが(故にレギュラー・メンバーのチック・コリアとデイヴ・ホランドは呼ばれていない)、演奏は強烈なグルーヴを生み出し、たしかにそれはボクサーの俊敏な動きを思わせる。テオ・マセロがサウンドトラックの根幹を成すパートとして目をつけたのも当然という気がする。なお2005年、マイルスはロック名声の殿堂に選出されたが、その大きな選考理由に、この『ジャック・ジョンソン』があったとか。

【収録曲一覧】
1-30 Track

Miles Davis (tp) Steve Grossman (ss)Benny Maupin (bcl) John McLaughlin (elg) Sonny Sharrock (elg) Herbie Hancock (org) Chick Corea (elp) Michael Henderson (elb) Dave Holland (b, elb) Billy Cobham (ds) Jack DeJohnette (ds) and others

1970/2/18, 4/7 & other dates (NY)

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