ところがふたを開けてみると、メンバーたちは順位発表直後のスピーチで次々と名言を残す。ファンやスタッフだけでなく、AKB48とふだん関わりのない人までその発言に注目する。前田敦子の「私のことは嫌いでもAKBのことは嫌いにならないでください」や、篠田麻里子の「つぶすつもりで来てください」といった言葉が印象に残るのは、その発言の背景をファンは知っているし、知らなくても現実社会に置き換え共感できるからだ。

 たかがアイドルの言葉になぜ共感できるのか。彼女たちが毎日を真剣に生きているからだ。私たちが社会人になりたてのころには、会社のため、世の中のためには自分を犠牲にしてでもやり遂げなければいけないとの覚悟を持っていた。だがそれが一人の力ではどうすることもできず、正しいことが通らない組織の壁があることに気づき、諦めたり妥協したりしながら心を平静に保つことを繰り返している。

 目の前にいるアイドルも同じような悩みを抱えているのがわかる。だから放っておけなくなるのだ。地道に頑張っているのに運営側に評価されないメンバーを見ていると、実社会でも同じような境遇で憤っているサラリーマンと重なる部分も多くある。そう感じているファンは、せめて応援しているアイドルには報われてほしいと必死になって投票するのだ。「誰が1位になるか」だけではなく、「誰が報われるべきで、その人にどれだけの票を集められる人望があるか」を見定めるイベントでもあるのだ。

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